【カイロ=押野真也】軍事衝突を続けるイスラエルとパレスチナのイスラム原理主義組織「ハマス」に対し、エジプト政府が14日に示した停戦案が不発に終わった。イスラエルは15日、いったん停戦案を受け入れたが、直後に撤回する形で再攻撃する構えに転じた。米国やエジプトの仲介の作業が失速し、戦闘は長引く可能性が高まった。
イスラエルとハマスは衝突と停戦を繰り返してきた。2008年や12年の衝突では、米国やエジプトなどの調停により比較的短期間で戦闘が止まった。今回はエジプトの停戦案が半日も持たずに事実上の白紙に戻り、混迷が深まっている。
エジプト政府が示した停戦案は、15日午前9時(日本時間同日午後3時)を期限に双方が軍事行動を一時停止し、その後の停戦の道筋を話し合うという内容だった。イスラエル政府は同日午前7時に開いた閣議で、この案の受諾を決めた。
一方、ハマスは停戦案を「イスラエルへの降伏」とみなし、受け入れに難色を示した。イスラエルが封鎖する物流網の再開などが確約されず、明確な「見返り」がない点も懸念したようだ。ハマスはロケット弾による攻撃を継続した。
こうした状況を踏まえイスラエルのネタニヤフ首相は15日、パレスチナ自治区ガザを再攻撃する方針を固めた。イスラエル軍が小規模な空爆に踏み切ったとの情報も流れている。
イスラエルは8日からガザへの本格的な軍事行動を開始した。イスラエルが最も警戒するロケット弾の発射施設のうち、3分の1以上を破壊したとされる。
戦闘がどこまで広がるかはまだ不透明だ。イスラエルが地上軍を投入すれば、自国兵士に犠牲が広がる可能性が大きい。ガザへの空爆で一般市民に多数の死傷者が発生しており、世界各地でイスラエルに抗議するデモも起きている。ネタニヤフ氏がつかの間とはいえ停戦案の受諾を決めた背景には、自国民への犠牲と国際的な批判をかわす狙いがあったとみられる。
イスラエルの閣議では保守強硬派で知られるリーベルマン外相らが受諾への反対論を表明した。リーベルマン氏は15日夕の記者会見でイスラエルの安全保障を理由に「軍がガザ全土を掌握すべきだ」と述べ、ガザへの全面侵攻を主張した。つかの間とはいえ停戦を受諾したネタニヤフ氏に対する国内の強硬論はさらに増しそうだ。
過去に停戦を積極的に仲介した米国の影が薄いことも不安材料だ。ウィーン訪問中のケリー米国務長官は15日、イスラエルが停戦を受諾した段階で歓迎する意向を示し、「他の勢力にも受け入れを促す」と呼びかけた。オバマ大統領はエジプトの提案が事態打開につながるよう期待感を示すにとどまった。
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