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【社説】

無戸籍児 子の利益に立つ救済を

 親の事情で出生を届けられず、戸籍のない人がいる。健康保険の加入や免許資格の取得、就職や結婚など普通の暮らしができない。戸籍の作成をはじめ、子の利益に立つ救済が考えられるべきだ。

 子どもは出生届が出されないと無戸籍になる。なぜ、そんな事態が起きるのか。

 親の事情はさまざまだが、根っこに民法七七二条の規定がある。

 母親が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定されるため、婚姻関係を解消できていない間に別のパートナーとの子を産んで出生届を出せずにいたり、離婚後三百日以内に生まれた子は前夫の戸籍に入ってしまうため、出生届を出せないケースも。夫の暴力から逃れた母親が、夫と接触を断つために出生届を出せない場合も多い。

 こうした戸籍がない子にも市町村は親からの相談を受けて、住民票を出し、児童手当や就学などの行政サービスを行っている。

 この住民票の数から、戸籍のない子は二十年で一万人と推計される。だが、それは親からの相談があってのことだ。

 虐待事件から、厚生労働省は住民票があって就学していない子を調べているが、そもそも存在を隠されるように住民票も作られずにいる場合は、確認が難しい。

 支援団体のもとには戸籍のない人たちの相談が相次いでいるが、氷山の一角とみるべきだろう。

 戸籍がない状態は、生まれていながら公的には「存在しない者」とみなされることだ。

 人として当たり前の暮らしを奪われている。健康保険がなく、携帯電話の契約、運転免許の取得、就職や結婚もままならない。

 戸籍を作るには裁判手続きが必要となる。母親の前夫に証言を求めたり、実父に認知を求める調停があるが、家族関係が崩壊した後では負担が重すぎる。

 親の事情ではなく、まずは子の利益を優先して戸籍を作れるようにすべきではないか。「父未定」のまま出生届を出せるようにするのも一つの案だろう。

 民法は曲がり角にある。家父長制時代の名残の七七二条は見直すべきだ。欧米のように子ども中心に親子関係を決める制度に改めることは救済につながる。

 養育の知識や能力に乏しい親はいる。生活保護の申請者には、出生届を出せないでいる母親もいるはずだ。困った人たちのサインを逃さず、法や支援体制を整えておくことは、大切な子どもが社会から排除されない道となる。

 

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