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選挙制度が政治を決める

何と「独裁者のためのハンドブック」という、民主国家の国会議員が読んでいいのだろうか、という刺激的なタイトルの本を読みました。

ふざけたタイトルですが、文体もやや不真面目。しかし、書いたのは、真面目な政治学者達です。ニューヨーク大学政治学部の二人の教授です。そのうちの一人は米国国際学学会の元会長です。

独裁者がどうやって権力をつかみ維持するかを知るためのマニュアルのような体裁を取りつつ、裏を返して民主主義の重要性を示します。

この本の背景には「権力支持基盤理論」という、著者達が提唱した政治学の理論があります。権力を維持するための方法論といった趣です。

その「権力支持基盤理論」を紹介する学術書は、分厚くて数式だらけの本らしいです。しかし、数式だらけの本では読まれないので、わかりやすく書き下したのが本書です。

経済的に豊かで医療や教育の水準が高いのは、一般的に民主主義の国です(常識的ですが)。そのメカニズムも本書は解き明かします。

この本のおもしろい点はたくさんありますが、選挙制度と政治の質の関係についての指摘が、私にはいちばん興味深かったです。

アメリカ合衆国の独立時に13州ありましたが、選挙制度や政治制度が微妙に異なりました。その差というのは、さほど大きくありません。

しかし、立候補基準や選挙区割り等の規則の差が、州ごとの経済や社会の発展に大きな差をもたらし、南北戦争前の南北の経済格差につながりました。

奴隷制度の有無や気候のちがいという要素より、選挙制度のちがいが、南北の経済発展の程度に、より大きな影響を与えたとされます。

より具体的には「総じて政治家が人口に対して高い比率の支持層を要する州ほどうまくいく」と著者は結論付けています。

かつてアメリカでは、参政権を制限する理由として、州によっては財産の多寡や教育水準も含まれました。もちろん奴隷に参政権のない州もありました。女性の参政権が認められるのは20世紀です。

「ゲリマンダー」と呼ばれる恣意的な選挙区割りも、前述の「高い比率の支持層を要する」という条件を損なうもののひとつと言えるでしょう。

前述の「政治家が人口に対して高い比率の支持層を要するほどよい」という法則を日本にあてはめると1)一票の格差をなくし、2)死票を減らすこと、に力を入れるべきということになると思います。

おそらくアメリカ人の政治学者である著者たちは、単純小選挙区制を前提に考えているのでしょうが、日本の文脈で考えると比例代表の比率を増やすのも、前述の法則の効果を上げることにつながるかも。

日本では、選挙制度改革の議論が現在進行中です。衆議院議長の下に第三者組織も設置される予定で、選挙制度の改革の議論が本格化していきます。

選挙制度が、政治家の質や行動様式を決めます。選挙制度改革というのは、政治改革の核心です。冷静かつエビデンスに基づく国民的議論をして、選挙制度をより良いものにする必要があります。

*ご参考:「独裁者のためのハンドブック」、ブルース・ブエノ・デ・メスキータ、アラスター・スミス著、亜紀書房、2013年

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