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1000億円規模を突破した電子書籍市場 ― 拡大の要因を探る

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yusuke iguchi

インプレス総合研究所が発行した「電子書籍ビジネス調査報告書2014」によると、2013年の市場規模は1,013億円と大台を突破し、これが2018年には3,000億円を超えると予測しているという。電子書籍は、確実にユーザーの間に定着していっていると評価して間違いないだろう。

実は日本における電子書籍の歴史は古く、エレクトロニクス産業は幾度となく電子書籍、電子出版市場の創出にチャレンジしては、多くのサービスが生みだされ、そして消えていった。その背景には、デバイスデバイスの未成熟、コンテンツ流通の難しさ、価格設定、出版社の参入障壁の高さなど様々なものが考えられるが、AppleのiPadとAmazonのKindleといったタブレット端末の爆発的な普及やスマートフォンでの電子書籍を楽しむという利用シーンが一般化したことによって、電子書籍はついにデジタルコンテンツ市場において確固たる地位を確立したのだ。

ただ、昨今の電子書籍市場の盛り上がりを牽引したのは、iPadやKindleといったデバイスだけではない。もちろん、デバイスの進歩や通信環境の整備はユーザーと電子書籍のタッチポイントを生み出す大きな原動力になったのは間違いないが、それだけでは電子書籍市場は拡大しない。デバイスや通信だけでなく、電子書籍市場の大きなカギを握る出版業界の参画とコンテンツ配信事業者の努力が大きく寄与しているのではないだろうか。

出版業界は減少し続ける書籍や雑誌の出版事業に代わる売上の柱を電子書籍に求め、それが拡大する電子書籍プラットフォームへの参画に繋がった。例えば、凸版印刷系の「BookLive」など出版業界自身が電子書籍プラットフォームに進出するなどの動きもあり、出版事業の電子書籍に対するモチベーションは非常に高いと言える。また、コンテンツ配信事業者の領域ではソフトバンク系の「ビューン」やNTTドコモの「dマガジン」など定額で雑誌読み放題のサービスや、スマートフォンのキャリア課金で手軽に利用できるサービスなどコスト面や使い勝手で利用障壁を下げる形で利用者を増やしている。

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(凸版印刷などが出資して運営している「BookLive」)

そして、市場拡大の大きなポイントとなっているのが、コンテンツ配信事業者が電子書籍を利用するユーザーのターゲットを絞った戦略を行ってきた点である。例えば、小説や実用書などの領域では、依然として紙の書籍が強さを見せ、読書愛好家はやはり紙の良さを重視する傾向がある。一方で、ビジネスパーソンが移動中やちょっとした隙間時間に楽しみたいというニーズを満たす雑誌、ビジネス書、コミックスなどは電子書籍との相性が良い。コンテンツ配信事業者の中には、電子書籍と親和性の高いターゲット層にピンポイントに焦点を当てたサービスを開発してきているのだ。

例えば、電子書籍大手のパピレスは、幅広い分野の電子書籍を取り扱う「電子書店パピレス」の新業態として、ビジネス書や実用書を一冊単位ではなく章単位で購読することができる「パピレスプラス」を開始。最低価格が1記事10円という手ごろさと、東洋経済新報社、PHP出版社、二見書房といった出版社から提供される1万点以上の記事ラインナップを武器に、ビジネスパーソンの利用を拡大させたい考えだ。興味のある電子書籍があっても読書時間が確保できる見通しがないと紙の書籍と同等のコストをかけて1冊まるごと購入しようという気にはなかなかなれないが、興味のある部分だけを章単位で購入できるのはこうした課題を解消するソリューションになるのではないだろうか。

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(ビジネス書などを1章10円から購入できる「パピレスプラス」)

技術や目新しさばかりが先行して"電子書籍"という大まかな概念を流行させようと思ったら、電子書籍市場はここまで拡大しなかったのではないだろうか。電子書籍というプラットフォームにフィットするコンテンツは何か。電子化された書籍を求めているユーザーは誰か。そして、いつどのようなシーンで電子書籍を楽しみたいと思っているのか。このような潜在的なユーザーニーズを探り、適切なコンテンツやサービスを展開するという企業のマーケティング努力が、市場拡大を大きく牽引していると言ってよいだろう。

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