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集団的自衛権行使容認 戦う国がなぜ安全なのか

(2014年7月2日午前7時15分)

 自衛隊発足60周年の日、安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使容認へ向け憲法解釈変更の閣議決定に踏み切った。自国が攻撃されていなくても、密接な関係にある他国への攻撃を阻止する国家体制は自衛隊の派兵に道を開くものであり、歴代内閣が守ってきた「専守防衛」の理念から大きく逸脱するものだ。

 憲法9条の下にある「平和の維持装置」を一内閣の恣意(しい)的判断で簡単に変更することが許されるのか。強引な解釈改憲が立憲主義に反するのは明らかだ。

 日本の安全保障政策の大転換は、国会機能無視と国民不在の与党密室協議で進められた。歯止めとされる「自衛の措置」としての「武力行使の新3要件」も抽象的で許容範囲が曖昧。言葉上は「限定容認」と抑制的だが、政府裁量で拡大解釈され、日本を戦う国へ導く恐れを禁じ得ない。

 ■不戦の誓いどこに■

 安倍首相が第1次内閣から掲げてきた「戦後レジーム(体制)からの脱却」は日本が連合国から押しつけられた制度や理念、価値観から解き放ち、自立性の高い「強い国」を創造することであろう。自民党が目指す自主憲法、自衛隊の国防軍化、首相の宿願である集団的自衛権の行使容認もその一つ。時代変化や国際環境の悪化は実現への口実にすぎないようにみえる。

 言うまでもなく、憲法は国の最高法規。9条は大戦の反省の上に立ち、戦争放棄、戦力の不保持、交戦権の否認という崇高な理想を掲げる。憲法施行からこの67年間、一度も手を着けていない。過去の自衛権論議でも1981年に政府見解が確立し「国際法上、集団的自衛権を持っていることは当然だが、行使することは憲法上許されない」との解釈が歴代内閣を縛った。

 ■つぎはぎの3要件■

 今回、安保政策の大転換にどれだけ時間をかけたのか。5月20日の初会合から1カ月半。計11回の協議で費やしたのはわずか約13時間。協議内容もころころ変わり、事例検討も尽くさず集団的自衛権の本格検討は1度だけだ。論点を詰め切れないまま、新3要件を基に拙速に合意を図った。これも政府、官僚、自民党が72年の政府解釈や憲法を拡大解釈するなど、つぎはぎして作り上げたものだ。

 3要件では「他国への武力行使でも国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合、必要最小限度の実力行使は憲法上許容される」とする。自衛隊が海外での戦争に参加可能となれば9条は空洞化する。

 自衛隊の海外派遣は92年にPKO協力法ができたのを契機に、イラク派遣など任務は拡大しつつある。だが、それは「他国への攻撃に反撃する集団的自衛権は認められない」との憲法解釈の下だった。

 ■国民と乖離する国■

 世論調査では過半が集団的自衛権に反対し、自民党の石破茂幹事長も会見で「党と一般の方々の意識に乖離(かいり)がある」と述べている。安全保障環境の変化への即応が不可欠なら堂々、憲法改正を国民に問うべきだ。

 「平和」を党是としてきた公明党の責任も重い。政府、自民党の提示した集団的自衛権行使の事例に関し、個別的自衛権や警察権の拡大で対応できると主張してきたはず。変節の説明責任が問われるのは当然だ。

 自民リベラル派の姿も見えず、野党勢力も後退。健全な抑止力が働かない状況に、「平和国家の歩みは変えない」と強調する安倍首相の言葉が空疎に聞こえる。

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