社会

【社説】集団的自衛権閣議決定 首相は説明責任果たせ

 政府は集団的自衛権行使を可能とする憲法解釈変更を閣議決定した。専守防衛を基本としてきた戦後の安全保障政策の大転換である。

 記者会見で安倍晋三首相は「濃密な協議」を経たと述べた。だが、論議に費やされたのは1カ月半にすぎず、いかにも拙速な進め方と言わざるを得ない。

 国会の衆参ねじれ状態が解消された結果、安倍政権にとっては思い通りに「決められる政治」が運営可能な状況にある。だからこそ謙虚さが求められるが、逆におごりがにじみ出ている。

 集団的自衛権は、そもそも難しい概念だ。国民にじっくり説明し、理解を求めながら議論を進めるべきだった。それが国民や地方議会から上がる声を無視するかのような粗っぽいやり方で先を急いだ。批判されてしかるべきである。

 共同通信社の世論調査によると、行使を一度容認すれば、容認の範囲が広がるのではないかと懸念する回答が多い。

 閣議決定の「武力行使3要件」は(1)国民の幸福追求権が根底から覆される明白な危険がある(2)他に適当な手段がない(3)必要最小限度-である。だが「明白な危険」に当たるかどうか、時の政権が恣意(しい)的に判断する余地がある。自衛隊の武力行使の範囲が際限なく広がる不安を拭いきれない。歯止め機能について、さらに国民への丁寧な説明を求めたい。

 閣僚にも「憲法改正が正論だ。次のステージとして改正することが取るべき方向性だ」(下村博文文部科学相)という声がある。

 正攻法の憲法改正を避け、我田引水の論理を構築して憲法の読み方を変えてしまった。立憲主義への重大な挑戦であり、政権が交代すれば解釈も変わるのであるなら無責任と言うしかない。

 今後、関連法案の審議が行われるが、安倍首相はおごりを捨て、真(しん)摯(し)な態度で議論に臨んでほしい。1強多弱の情勢とはいえ、野党にも国会議員の責務を可能な限り果たしてもらいたい。

 安全保障政策の転換という、極めて重要な政治判断が行われたのである。本来なら首相は衆院を解散し、国民の信を問うべきだが、今のところ意思はないとみられる。だとしても、私たち有権者は国会審議を注視し、次の国政選挙で審判を下す準備をしておきたい。

【神奈川新聞】