2014年7月15日火曜日

☆本日のお話・二次創作について考えた②☆

 先日は疲労困憊していたせいか、やたらと大ざっぱで皮肉っぽい上に前のめりに過ぎるしろものを書いてしまったため、本日は実例を交え、もう少しまともなものを書いてみようと思います。


 【グレーゾーンとは何か】

例1) ある有名作品の「最終回」を同人誌として出版した方がいました。おそらく本人の意図を超えてその「最終回」は話題となり、学校教育でも取り上げられるという人気を博しました。あまりに話題になったため、出版社と原作者がその同人誌を規制しました。

例2) ある人気同人サークルが、同人誌販売店に専属委託するという条件で、大手印刷所での印刷を斡旋してもらいました。しかしその印刷所は出版業界において重要な製造ラインであったことから、「グレーを自らブラックにした」とみなされ、出版社が規制に乗り出しました。

例3) ある小説を原作とした漫画が連載され、大いに好評を博したものの、原作者が漫画に対し不快を表明したことから、漫画の連載は中断されました。

例4) ある作品を原作とした映画の脚本が好評を博し、独自に出版されることとなりました。しかし原作者が、「あの脚本を後世に残したくない」という理由で出版に異を唱えました。結果、脚本の出版は取りやめとなり、脚本家協会はこの件の是非を問うアンケートを実施しました。

 こうしたトラブルはケース・バイ・ケースであると考えられがちですが、実際は全て同じ問題の異なるバリエーションに過ぎません。
 問題のおおもとにあるのは慣習的な「契約の不在」であり、権利者が、ある部数や金額を根拠とするのではなく、「気分を害して当然である」ということを根拠に判断を下しているのです。

 これがグレーゾーンの正体であり、権利上の強者がいつでも好きなときに自由に訴えを起こすことができる慣習的な態度であって、決して、権利上の弱者が自由に活動できるよう、あえて曖昧にしているのではありません
 むしろ実際は逆で、いつでも都合の悪いものは排除し、都合の良いものだけを黙認できるという、きわめて恣意的で支配的な状況、それがグレーゾーンなのです。
 これが「自由な表現の場」と呼ぶにふさわしいかどうかというのも結局は気分の問題であり、それこそケース・バイ・ケースに過ぎません。

 グレーゾーンにおいて黙認される条件はただ一つ、「目立たない」ことです。
 権利者が不快になるような売り上げ、評価、作風、部数などを実現してはならず、下手に好評を博してはならない、というのがゆいいつ絶対の暗黙のルールであるのです。

 そうしたグレーゾーンを脱するには、契約をはっきりさせるしかありません。
 製作や販売が保証される契約を交わしてさえいれば、原作者が怒髪天を衝こうとも、問題が深刻になることをかなりの程度、防げていたはずです。
 ときに「契約をすると不利になりかねない」といったことを聞きますが、そうではなく、単に状況がはっきりするということであって、契約で不利になる人はもともと不利な立場にいるのです。
 とはいえ正当な契約である限り、不利であることには必ず理由があり、ほとんどが利益をどう保証するかという問題によるものです。

例1)新人賞と二次利用の権利
 新人賞の中には、受賞作の二次利用の権利を出版社側にあらかじめ譲渡するよう設定されているものがあります。新人以外でも、売れるとは限らない作品など、あるいは多額の広告費を出すなどの場合、出版社側のリスクヘッジとしてしばしば行われます。

例2)ホールドアップ契約。
 ある原作をメディアミックスする際、「他の会社で同じことをさせない」という契約が結ばれることがあります。たとえば大型の映像企画が動く期間は、他のメディアミックスを一切停止しろといった契約です。

例3)専属契約
 毎月の給金を支払うといったかたちで生活を保障する代わり、他の会社で仕事をしてはならないといった契約です。

例4)権利委託
 全権利を委託するが、ただし期間内にメディアミックス等が成立しなかった場合、最終期限までに制作された全ての成果物もろとも原作者側に権利が戻るという契約です。

例5)一括許諾
 版権管理会社などに許諾料や広告料を支払わねばなりませんが、管理会社が管理する作品の使用を一括して許諾してもらいます。カラオケが代表的で、ニコニコ動画などもこれを実施しているそうです。

 このように、契約にはそれぞれ有利な面と不利な面があり、一概に契約するから不利になるということはありません。むしろ権利と責任を有限化することによって様々なリスクを回避することができます。
 中には悪辣な契約もありますし、詐欺まがいのしろものも多く存在します。
 しかし、それらの見極めを省きたいからと言って、契約がない状態にあるというのは、結局のところ、いつ詐欺以上の打撃をこうむってもおかしくないグレーゾーンに立っているということなのです。

 問題は、契約行為に伴う労力と出費であり、その低減こそ契約を簡便化する最も大きな根拠となるべきでしょう。
 決してグレーゾーンを確保するために契約内容を大ざっぱにするのではなく、法務に奪われる時間と金を抑え、決して悪辣ではない、正当で最適な契約を新たな慣習とすることが、メディアミックス等におけるトラブルを未然に防ぐことになるのです。
 ときには、ニコニコ動画さんの一括許諾のように、ユーザーと個別に大量の契約書を交わすことなく、特定の条件を満たし、特定の利益を根拠とすることで、結果的にすべてのユーザーが契約に参加しているといった状態こそ、新たな慣習的態度となるべきでしょう。

 それでは、原作者はいかなる根拠でもって、一次創作、メディアミックス、二次創作、海賊版の区別をつけ、決してグレーゾーンではないあり方を模索できるのでしょうか。
 

 続きは後日。