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喪われた魔王の伝説 作者:藍宇江雄

第1章 俺が魔王の生まれ変わりだって!?

5.元魔王、冒険者ギルドへ行く。

「ブゾゲさーん、素材買取計算終わりましたぁ! 三番カウンターまでお願いします!」

「ケーニックさん、依頼達成確認しました! 一番カウンターまでお願いします!」

「【黒魔団】さん、査定完了です。八番カウンターまで来てください!」



 建物内に飛び交う声を聞きながら、明はキョロキョロと周囲を物珍しげに眺めていた。
 ここは、冒険者ギルド・パルワイム支部。その待合席だった。
 チラチラとこちらを窺うような視線も向けられているが、意識して無視している。
 もうここに独り取り残されてから、1時間は待たされていた。

 森の中で多脚熊(ガマラ)を倒した明だったが、何故か双子美少女にドン引きされてしまった。それ以降、明の方をチラチラと振り向きながら囁き交わす姉妹の後ろを、多脚熊(ガマラ)の巨体をそのまま担いで悄然とついて行った。

 魔術を使ったり戦闘したりといった場面ではシスの経験が強く出るのか、戸惑ったり怯えたりと言う事はないが、いったん対人関係になると、あっという間に奥手な男子高生に戻ってしまう明なのだ。

 ちなみに、ティティも1匹担いでいた。さすがに魔力で強化された膂力があれば、その程度は出来るようだ。
 森の中を歩き続けること小1時間。
 続いて草原を歩くこと数十分。
 太陽が傾き始めた頃、城壁に囲まれた街に到着した。

 テライム王国の地方都市パルワイム。
 テライム王国もパルワイムも、シスの記憶にはないということは、建国200年以下という事だろう。
 市内へと続く門では身分証明を求められるかと思ったのだが、門番にはスルーされてしまった。意味が分からない。スルーするならなぜ門番を置いているんだろう? と思ったが、シスの時代も同じだったようだ。
 門番と城壁は、魔獣などの襲撃から守るためのもの。
 城壁の内側にもう一つ、貴族や金持ちが住む高級住宅街を囲む城壁があるらしい。そちらの通行には身分証明が必要になるが、庶民平民が住む区画ではそれを行うと煩雑になりすぎるため、チェックフリーとのこと。
 門番含め、多脚熊(ガマラ)を丸々担いだ明を見た人達は、ギョッとした表情を浮かべるが、すぐ前を歩く姉妹を見て納得の表情に変わる。どういうことだろう?
 姉妹に連れられて到着した冒険者ギルドは、堅牢な印象の石造りの建物だった。地上3階建てだったが、1階のみが登録冒険者や一般客が利用するフロアらしく、しかも一番込み合う時間だったようで、人でごった返していた。

 買取カウンターの係の人に査定のために多脚熊(ガマラ)2体を渡した後、ネティアが申し訳なさそうに少し待ってくれと明に告げると、姉妹はギルド職員のような人と一緒に2階へと姿を消してしまった。

 1時間も待たされて、さすがに飽きてきた明は、先ほどから行き交う人々のステータスを覗き込んでいた。

(やっぱり総じてレベル低いよなぁ……シスが高すぎなのか? いやでも、昔はもっと高レベルな人達もいっぱいいたはずなんだけどなぁ……)

 目の前を行き交う多くは、当然のように冒険者だ。
 フルに鎧を着込んだ荒くれ者風の男。
 魔術師風の、現在の明と同じようなローブを纏った青年。
 軽い革鎧とショートソードを身に着けた少女。
 格好や年齢、性別は様々だが、シスの記憶と現状を照らし合わせてみると、どうにもレベルが低い。
 どういうことなのか分からずに戸惑う明は、ついつい気を抜いて、こんなんじゃ世界征服とか本気で狙えそうだぞ、などと妄想し始めてしまう。

(っ!)

 魔力!

 気を抜いていたところに他人の魔力が纏い付いてくるのを感じた明は、瞬時に自分の魔力障壁を強化し弾き返す。

(誰だ? 誰かが俺を魔力走査(スキャン)しようとした気がしたけど……)

 魔力障壁は常時五重展開している。
 シスの習慣に倣い、森の中でも常に練習していたお陰で、今では呼吸するのと同じように無意識に展開している障壁だ。
 自分の膨大過ぎる魔力が無駄に流出することを防止するための内向きの障壁が2枚と、もう2枚は咄嗟の魔術攻撃を防ぐためのもの、そして最後の1枚は自身の魔力波動(パターン)を探られないための認識阻害(ジャミング)障壁だ。
 今感じたのは、こちらの実力を探るような魔力の使い方。明がネティアとティティに対して使ったものほど洗練されてはいないが、かなり高度な使い手と思えた。
 そうした使い方を出来た者は、シスだった時代にもそれほど多くはなかったはずだ。
 反射的に逆探知し術者を特定しようとすると、驚きの感情が伝わってきて、魔力端子が掻き消えた。
 だがその一瞬でも、途中までは辿ることが出来た。転生前のシスなら、相手を探り返すことも出来たはずだと思うと、少々悔しい。
 魔力がやってきた先に目を向けると、カウンター内から2階へと続く階段があり、その途中に、驚愕の表情を浮かべて明を見ている妖艶な美女が立っていた。
 美女は明と目が合うと、気を取り直すように肩を竦め、妖しい微笑みを浮かべて階段を降りてくる。

 見た目は20代前半だろうか。
 褐色の肌に、銀色の長い髪。豊満な胸の谷間を強調するような、黒革のコルセットのような物を着け、下半身もお揃いの黒革のショートパンツ。そして膝丈で黒革の編み上げブーツを履き、その上から足首まであるロングコートを羽織っている。

(ダーエ=ルフ族だな……)

 銀髪からのぞく耳は、上端が長く尖っていた。
 美女がカウンター内まで下りたところで、フロアに満ちていた冒険者達の間にざわめきが起こる。それで明にも、彼女が何者かが分かった。
 パルワイム冒険者ギルド支部長。
 支部長がカウンター脇のスイングドアを抜けて来ると、冒険者達がざっと二つに分かれ、彼女と明の間に道ができあがる。
 冒険者達の表情は、大きく分けて二分できた。
 憧憬と畏怖。
 凍り付いた空気を意にも介せず、明の方へと歩いて来る。カツカツとヒールが石の床に音を立てる。
 ダーエ=ルフ族は、イメージとしてはファンタジー世界のダークエルフとほぼ一致する。種族名の音も似ており、何か関係があるのかもしれないが、それはシスにも分からないことだった。
 だが、地球産ファンタジーでは、闇の種族と忌避されるダークエルフだが、この世界のダーエ=ルフ族は希少というだけで、そういった差別とは無縁の存在だ。

「キミがアキラだな。珍しい容貌をしているから一目でわかったぞ」

 そう言って嫣然と微笑む。
 すぐ傍に立ち止まったため、座ったままの明が見上げると、巨大な胸部装甲に遮られて顔が見えないほどだ。
 そこを凝視するのも具合が悪く、明は頬を染めて視線を外し、コクコクと何度も頷いてしまう。

「私はここの冒険者ギルド支部長、アーリャ・ミローグ。少し訊きたいことがあるのだ、2階に来てくれないかな?」

 その言葉にも、無言で首を上下する。
 正直周りからの視線が痛い。さっきまでの好奇の視線は耐えられたが、明らかにこのアーリャなる美女が話しかけているせいで、視線に含まれる感情が、嫉妬と憎悪に傾いている。

「助かる。ムルグ達とのことで、ちょっとな」

 そう言うとアーリャは、明の返事も聞かずに踵を返す。
 黒いロングジャケットの裾が翻り、明の鼻を濃厚な女の香が刺激する。

(やばい、これ匂いだけでヤバイ……このエロ度は俺には刺激が強すぎ……)

 周囲の視線から逃れるようにアーリャの後を追おうとするが、股間で固くなった物が目立ちそうで、前屈みでひょこひょこ付いていくしかなくなってしまう。
 ロングコート越しでも分かる腰の線が目に入り、さらに明を刺激する。この女力は、どうあっても明を鎮めさせてくれないらしい。

(ま、魔術勝負だったら負けないんだからネッ!)

 血迷ってそんな言葉が浮かんでしまった。






「そこに掛けてくれ。ネティアとティティ、少し場所を空けてやれ」

「は、はいっ!」

 ギルド2階の支部長室に案内された明は、居心地悪そうにソファに座っていた双子美少女と再会を果たした。
 執務室としては簡素なのだろうか。壁際の本棚には高価そうな大判の本が詰め込まれており、その手前には重厚な机がある。ネティア達が座っているのは、部屋の中央に「コ」の字型に据え置かれた応接用ソファだ。

 前屈みの明を見て、ティティは何かを察したのか、顔を赤くして侮蔑の視線を送ってくる。

(あぁ、ネティアはやっぱり良い子だ! 双子なのになんでこんなに違うの!?)

 明の不自然な姿勢に、キョトンとした様子で不思議そうな目を向けてくるネティアに、明はホッとした。

「さて、アキラに訊きたいのことがいくつかある。なに、それほど複雑なことでもないし、分からないことは分からないと言ってくれ。尋問したいわけではないので、気を軽く持て」

 そうして明は、昼間にネティアとティティにしたのと同様の説明をすることになった。



「そうか、クフェル大陸から……ネティア達に聞いたことと矛盾はないようだな。では、ムルグが実際にネティアとティティに害意を持っていたかについては、確証はない、と」

「そ、そうですね。俺が見たのは、き、気絶した禿マッチョと、男二人が逃げていくところだけですから……」

 舌を噛みそうになりながら、明はしどろもどろに証言する。
 支部長アーリャの、紅く濡れた唇がエロい。
 意味ありげな紫の瞳がエロい。確実にGカップはありそうな胸の谷間がエロい。
 ショートパンツから惜しげもなく晒されたむっちりした太ももがエロい。
 褐色の肌がラテン的な肉食性を思わせてエロい。
 どこを見てもエロい。フェロモンの塊だ。

「では、あとは本人達に確認するとしよう。無事に帰ってくれば、な。ご苦労だった、ネティア、ティティ。二人は戻っていいぞ。もうガマラの買取査定と依頼報酬は準備が出来ているはずだ」

「あ、あの……」

 アーリャの言葉に、おずおずとネティアが発言の許可を求める。アーリャに顎で促されたネティアが、ちらりと明の方を見てから言葉を続けた。

「あの2匹を倒したのは、ほぼこちらのアキラさんお1人です。わたし達は何も出来ていなくて……」

「ならば……そうだな、依頼内容は多脚熊(ガマラ)の爪だったのだろう? であれば、それ以外の素材買取金をアキラに渡せばいいだろう。アキラもそれでどうだ?」

 それでどうだも何も、このギルドというのがどういうシステムかも知らない明としては、何と言えばいいのか分からない。コクコクと無言で首を縦に振ると、アーリャは何がおかしいのかフフフ、と笑みを溢す。

「だそうだ。それではお前等はもう行け。私はこのアキラと少々話があるのでな」

 半ば追いだすようにして双子姉妹を退出させると、アーリャは「さて」と言って脚を組み、アキラへと真っ直ぐな視線を向けてきた。

(こ、この人わざとやってんじゃなかろうか!)

 ゆっくりと脚を組む際、内モモがぎりぎりまで覗いた。しかも同時に腕を組んでさらに胸を強調してきたのだ。
 明の視線が、自分の女としての部分をちらちら彷徨うのを見たアーリャは、朱く妖艶な舌をぺろりと出して、満足げに唇を舐める。

「あ、あの、俺に話っていうのは?」

「お前、これから先はどうするつもりなんだ?」

「これから……先ですか……」

 そう言えば、何も決めていなかった。
 シスの研究所に籠もっているよりも、漠然と街中で人と関わりながら暮らしていきたいと思っていただけだ。直球で訊かれ、はたと自分が何も予定を立てていなかったことに気付かされ、考え込んでしまう。

「……特に決めていないのであれば、冒険者でもやってみるか?」

「冒険者……ですか」

「ネティア達に聞いた話と、先ほどの魔力の扱いを鑑みると、お前は低く見積もっても2級相当の実力はあると思うが?」

「ふぅ~む……」

 先ほどギルドで見かけた冒険者たちの実力からすると、確かに現在の明の戦力であれば楽勝な気もする。

「まぁ他の奴等の手前、お前の実力が那辺にあろうと、8級からスタートしてもらうがな」

「う~ん……」

 無駄に目だっても仕方がない。こそこそ窮屈な思いをする気もないが、好んで悪目立ちする気もない。考えてみれば、200年前の、それもかなり偏った知識だけしかないのだ。他の多くの人達と同じ様な仕事をしてみるのもアリだと思えてきた。後付けの理由だけど。

「ちなみに私は元2級冒険者だ。途中で運営側に転職したからな。お前も普通に冒険者やっていれば、ギルドランクは順調に上がる。だが、2級への昇級は少し考えた方がいいぞ」

「というと?」

「冒険者ギルドはな、一応他国との連携もとってはいるが、根本的なところで国が関与する戦力育成機関でもある、ということだ」

 冒険者ギルドというのは国に干渉を受けない、独立国際機関という性格の組織ではあるのだが、色々としがらみも多いらしい。
 冒険者ギルドに登録した者は、自分のギルドカードを身分証明として他国のギルドに移籍することは可能だ。
 しかし冒険者は基本的に、戦争勃発時に国から依頼を受ければ、その時所属している国の傭兵として参戦する義務がある。
 そのため、高ランク冒険者を国外に出したくない、という思惑が国に生じる。強制的に留めることは出来ないが、あの手この手で引き留められるのだという。

 また、冒険者として3級以上となると、国を出ないことを条件に、固定給を貰うことも出来る。所謂囲い込みだ。
 それ以外にも、例えばA国の冒険者ギルドで開発された新技術や新魔法など、そうしたものは全て国への提供を義務づけられている。さらには、国力に影響を与えるような重大な技術や魔法を開発した者は、他国への情報漏洩をさせないために、強制的に出国禁止となってしまう。
 こうして国が強権発動させられるのは、ひとえに国自体がギルドへの最大の出資者だということがある。冒険者ギルドは、国が出資する半民半官の財団法人のようなものなのだ。
 それ以外にも色々と面倒な手続きはあるそうだが、明には覚えきることが出来そうもないので、追々ということで割愛してもらった。

「どうするかなぁ……」

 追加説明を聞くと、かなり制約も多そうだ。
 普通の冒険者は、そんな制約よりも3級以上になって国に認められることを目指すらしいのだが。
 しかし、冒険者からしてこれでは、どんなことをしようと制約はついて回るだろう。それこそ、かつてのシスのように権力者や国の都合を無視して世界を敵に回しでもしない限り。

「まぁこの街にいてくれる限り、シス様に関しては私の方で情報を誤魔化しておくことも可能ですので、お任せください」

「うーん、そう言ってくれるなら冒険者やってみようかな……ん?」

 悩んでいるところに、さらりと言われて返してしまったが、何か聞き逃せない単語が混じっていたような気がした。

「やはり、シス様だったのですね」

 冒険者ギルド・パルワイム支部長アーリャ・ミローグの美しい顔が、妖しい微笑みを浮かべたように見えた。
 そして目に涙を浮かべながら、プルプルと震えはじめた。

「シ……シ……シス様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぷあっ! ちょっ、アーry――」

 ソファから立ち上がったアーリャが、目にも止まらぬ速さで間のテーブルを乗り越え、明の顔を抱き締めて来たのだ。豊満な胸の間に顔を抱え込まれた明は、初めての感触に浮かれるよりも、窒息の危機を感じていた。
 胸の谷間でむぐむぐと言葉にならない声を上げながら、なんとか引き剥がそうとした手が胸を揉みしだいてしまう。

「あんっ! シス様いきなりそんな! あぁ、でもついに念願の――」

「ぷはっ! ちょっ、ちょっと待ってください! おおおお落ち着いて!」

「あっ、す、すみません、シス様! 私ったらつい……」

 無理矢理押し返してホールドを解いた明に、アーリャは我に返ったのか顔を赤らめて胸元を抑えて後退る。

「てっ、わっ、きゃあっ!」

 そして後ろにあったローテーブルに足を引っ掛け、後ろに倒れる。そのままドシンとテーブルの上に乗り上げ、M字開脚状態になってしまう。

 最小限しか隠されていない内モモが露わになり、さらにショートパンツが食い込んで――

(すっ、スジがっ!)

 明の視線は中央に浮き上がったかたち(・・・)に釘付けになってしまう。

「きゃっ! すすすすすみません! 私としたことが!」

 アーリャはさっと脚を閉じると、もともと座っていたソファに座り直す。
 挑発的な格好をしているくせに妙に初々しい反応なのだが、手に残る柔らかい感触と間近に見てしまった秘境にボーッとしてしまい、気付きもしない。
 それどころか、アーリャの胸元を無意識に食い入るように見つめてしまっている。

「あ、あの。シシシ、シス様が望まれるのでしたら200年間守ってきた私の貞操も……」

 顔を赤らめたまま身体をもじもじさせて言うアーリャの言葉をそこまで聞いて、明もハッと我に返る。

「ななななな何を!? アアアアーリャさん、あなたは何を言って――」

「そっ、そうですね! 少々焦りすぎてしまったようです! でで、ではそれはまたの機会というということで!」

「だ、大体なんで俺がシスだなんて思ったんですか! 全然見た目も違うでしょう!」

「ふふ……」

 明の言葉にアーリャが平静を取り戻したのか、落ち着いた雰囲気で嬉しそうに笑みをこぼす。

「先程、あなたの魔力に触れて分かったのです。あの魔力波動は……シス様の物でした」

 明は即座に弾き返したはずの魔力端子のことを思い出す。あの一瞬で波動を探られた。
 それは取りも直さず、このアーリャが警戒すべきかなりの実力を持っている魔導師だということを意味した。ゴクリと唾を呑み込む。

「じゃ、じゃあ……」

 どう言い繕うべきかが分からない。明が言葉に詰まっていると、アーリャが嫣然と微笑んで上目使いに明を見てきた。

「私にはお隠しにならずともいいんですよ、シス様?」

 突然の正体露呈に、しどろもどろに誤魔化そうとした明だったが、もう後の祭りだ。言葉途中で、笑顔のアーリャに遮られてしまう。

「そのお姿がどのような理由ゆえかは判りかねますが、あなたは帰ってきてくださった。それだけで充分です」

 態度にも仕草にも、敵意や悪意は皆無だった。それどころか、憧れの人物を前にしたように、瞳がうるんでいるようにも見える――明には経験がないので判然としないが。

「……ふぅ……分かりました。確かに、俺の中にはシス・ルという魔導師がいます」

「やはり」

「が! シスは死んでいます。俺はシス・ルが転生した人間で、アキラ・クドウ。確かにシスだったときの記憶はそれなりにありますけどね。でも思い出せていない部分もある。でも、あまり詳しく訊かないでもらえると助かります。俺もまだ消化しきれていないことなので」

「ふふ。分かりました。お話になりたくなったらお話ください。他の者にも秘密にしておきますゆえ。今後、あなたがどの様な行動をとられようとも、私は――ギルド支部長ではなく、アーリャ・ミローグはあなたの味方です」

 何故かアーリャは、全面的にシスの味方をすると言ってくる。しかも、明がシスの生まれ変わりであり、シス本人は死んでいると言っても、驚いた顔こそしたがショックを受けている様子もあまりなかった。

 明としては、背景は分からないが心中複雑だ。
 これほどのエロティック美女が味方になってくれるというのは、大人の階段を上れそうで嬉しいのだが、その好意の向かっている先が自分ではなく自分の前世なのだ。
 明としては、シスが前世であることは受け入れているし、彼から受け継いだ魔法にも知識にも感謝してはいる(本人にはイラつかされたが)。だが、18年生きてきた工藤明としてのメンタリティの方が優勢なのも事実だった。

「その、申し出はありがたいんですが、何故そこまでシスに肩入れを?」

「シス様は……そうですね、その話はまた今度ということで。覚えていらっしゃらないのは致し方のないこと。今はこの国での生活基盤を作られたいとお見受けしました。私の管轄下にあるパルワイム支部であれば、いくらでも情報操作はできますが?」

 はたして彼女の申し出が、真意なのか底意があるのか。
 騙そうとしている感じはしないし、仮にそうだったとしても、現時点では冒険者登録する程度なので被害があるわけでもない。
 そう判断し、明は冒険者になることを了承したのだった。
次の話ですが、ストックを見直していたら少々性急に話を進めている気がしたので、少々手直しすると思います。
夜中までかかってしまうかもしれませんが、明日の夜中には投稿できると思いますので、また読んでいただけますと幸いです。
+注意+
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