7月9日付 捜査・公判の改革 司法取引の導入は慎重に
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取り調べの録音・録画(可視化)が、法制化される見通しとなった。
捜査と公判の改革を議論する法制審議会(法相の諮問機関)の特別部会はきょう、取り調べ可視化の法制化に向けて、法務省が先日示した最終案を大筋で了承する予定だ。
ただし、可視化の対象となるのは、裁判員裁判対象事件と特捜部などが扱う検察の独自事件に限られ、例外規定も残るとみられている。
法制化のめどがついた点は評価できる。しかし、可視化の対象は全事件の約3%にとどまる。これではいくら何でも少な過ぎる。原則として全事件に適用する道を探るべきである。
特別部会の議論は、大阪地検特捜部による証拠改ざん事件をきっかけとして、2011年6月に始まった。
改ざん事件では、厚生労働省の村木厚子事務次官が冤罪の被害者となった。露見した強引な取り調べ実態に、多くの国民が耳を疑った。さらに、無実である人間が「自白」させられたパソコン遠隔操作事件も起きた。
可視化の対象を裁判員裁判事件と検察独自事件に限れば、パソコン遠隔操作事件や誤認逮捕が多いとされる痴漢事件は含まれない。3年間の議論は何だったのか。
捜査に対する国民の信頼は回復しているとは言い難い。二度と冤罪被害者を生み出さないという原点に立ち返るべきである。
対象事件であっても、取調官が判断すれば可視化しなくてもいいという例外規定は、拡大解釈がいくらでも可能で恣意的運用の懸念が消えない。見直しを強く求めたい。
例外規定を設けるにしても、厳格な要件を付ける必要がある。せっかくの可視化を骨抜きにしてはならない。
捜査協力を受けた見返りに容疑者の起訴を見送ることなどができる「司法取引」の導入と、通信傍受の拡大も、法案に盛り込まれる。可視化導入で従来より供述が得られにくくなる代わりにと、捜査側が強く要求した結果である。
振り込め詐欺や薬物密売事件では、末端を逮捕しても主犯格にたどり着かないケースが多いなど、犯罪は複雑・巧妙化し、摘発は難しくなるばかりだ。
司法取引は欧米では広く採用されている。海外捜査機関から、制度がない日本は、汚職や薬物犯罪などにおいて小者ばかり摘発して黒幕を逃している、という指摘を受けることがある。犯罪摘発の強力な武器になるだろう。
一方、司法取引は自分の罪を逃れるために無関係の人を巻き込む恐れがあるなど、新たな冤罪を生む危険性を指摘する声も多い。
司法取引の導入はもろ刃の剣であり、日本の刑事司法の大きな転換となる。
法制化に向けては、慎重な議論を基に精密な制度設計が求められる。検挙率向上ばかりに目を奪われず、乱用防止などの措置を施すことを怠ってはならない。
潔癖な国民性の日本人に受け入れられるかどうかも、大きな課題である。
プライバシー侵害の観点から懸念が強い通信傍受の対象範囲の拡大にも同じことがいえる。
今の時代に合った捜査とは何か。永遠の課題である。議論をこれで終わりにしてはならない。
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