出発点は冤罪(えんざい)の防止だったはずだ。3年余りに及ぶ議論で懸念は払拭(ふっしょく)されたのか。疑問が残る。
捜査と公判の改革を議論する法制審議会(法相の諮問機関)の特別部会が、法制化のたたき台となる法務省の最終案を了承した。今後、法制審が法相に答申、来年の通常国会に関連法案が提出される見通しだ。
議論の最大の焦点だった取り調べの録音・録画(可視化)については、全過程を警察と検察に義務付けるとした。司法制度改革をめぐる議論で、長年の課題だっただけに、ようやく一歩を踏み出したと言える。
ただ、可視化の対象は殺人や放火などの裁判員裁判対象事件と、特捜部などが扱う検察の独自事件に絞られた。合わせても全事件の3%程度にすぎない。暴力団事件などを除外できる例外規定も設けられた。
例えば、いったん死体遺棄の疑いで逮捕した容疑者から供述を得て、後に殺人容疑で立件するケースは少なくない。死体遺棄は可視化の対象外だ。殺人・死体遺棄という一体の事件でありながら、取り調べが適正に行われたかどうか、検証できない部分が生じる。
対象が限定された背景には、捜査当局、中でも警察の強い抵抗があったとされる。兵庫県警の幹部は「ビデオカメラがあることで、容疑者が話さなくなる可能性がある」などと捜査への悪影響を強調する。
可視化されていない密室では過去に虚偽の自白を迫ったり、供述を誘導したりするなどの強引な取り調べが繰り返されてきた。冤罪の温床になった面は否めない。
可視化の対象などは改正法施行から一定期間が過ぎた後、見直しを検討するとしている。捜査へのメリット、デメリットだけを論じるのではなく、可視化の目的、意義を踏まえた議論がこれからも必要だ。
最終案には、容疑者や被告が共犯者など他人の犯罪解明に協力すれば、検察官が起訴を見送ったり取り消したりできる「司法取引」の限定的な導入や、通信傍受の対象犯罪の拡大なども盛り込まれた。
捜査の適正化を掲げた議論で、捜査権限の拡充を図る当局の姿勢には「焼け太り」との批判も強い。
司法取引では虚偽供述で無実の人が巻き込まれる危険性が指摘されている。乱用防止の仕組みを設けずに導入を認めるわけにはいかない。
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