2014年7月13日(日) |
冤罪(えんざい)事件の反省に立ち、捜査と公判の改革を議論してきた法制審議会(法相の諮問機関)の特別部会が、法制化のたたき台となる法務省の最終案を了承した。 法制審が最終案を基に答申し、法務省は来年の通常国会に関連法案を提出するという。 最大のテーマである取り調べ全過程の録音・録画(可視化)を、警察と検察に義務付けるとした。 とはいえ、可視化の対象は殺人や放火などの裁判員裁判対象事件と特捜部などが扱う検察の独自事件に限定され、全事件の3%程度にとどまる。検察の事件が中心で、警察が日々取り扱う事件の大半は可視化の義務を負わない。既に自主的に試行されている可視化の範囲とほとんど変わらず、極めて不十分だ。 一方、可視化の導入により供述が得られなくなるとして捜査当局が求めてきた「司法取引」や通信傍受の対象拡大が盛り込まれた。捜査当局は新たな「武器」を手にすることになる。 そもそも特別部会は、同部会委員を務めた厚生労働省の村木厚子事務次官が局長時代に逮捕・起訴され、無罪となった文書偽造事件で、検察の密室での強引な取り調べや証拠改ざんが明らかになったのをきっかけに設置された。 しかし捜査の適正化を目指した議論は3年余りを費やし、捜査権限の強化へと軸足を移したようだ。本末転倒と言わざるを得ない。 法制化に向けて課題は残されたままだ。冤罪防止という原点に立ち返り、必要な見直しを進めるべきだ。 例えば、殺人・死体遺棄事件は、死体遺棄容疑で逮捕した容疑者から供述を得た後、殺人容疑で立件する事例がよくある。 だが最終案では死体遺棄は可視化の対象外であり、一連の事件でありながら取り調べが適切に行われたのか検証できない。 こうした事例一つとっても本来あるべき可視化にはほど遠い。司法取引も考慮すると、可視化の対象事件を広げることが不可欠だ。 司法取引では、容疑者が捜査に協力し共犯者らの犯罪を明らかにするために供述したり、証拠を提出すれば、見返りに検察が起訴を見送る「協議・合意制度」が導入される見通しだ。 取引の対象は、経済事件や薬物犯罪に絞り込まれたが、容疑者らが罪を逃れるために、うその供述で無関係の人を巻き込む危険性が指摘される。 取引を新たな冤罪の温床にしないために透明性を確保すべきだ。少なくとも対象事件の取り調べは全面可視化が必要だろう。 通信傍受は、組織性が疑われる殺人や詐欺、窃盗など9類型の犯罪を新たに加える。一方で、通信事業者の立ち会いは不要となる。 国民のプライバシーに関わるだけに、適正な運用を監視する第三者機関の設置など、傍受の乱用を防ぐ仕組みが欠かせない。 改革は、刑事司法の大きな転換となる。国会では市民目線を重視し慎重に議論すべきだ。 |