2ヶ月経っても凍らない海水配管トレンチ 凍土壁は本当に大丈夫か?

 
7/7に行われた規制庁の第24回監視評価検討会では、メインの議題は海水配管トレンチの凍結の問題でした。タービン建屋とトレンチの「縁切り」のため、昨年から計画してきて今年の4月に凍結を開始したのですが、2ヶ月経ってもまだ凍らないのです。

そのため、今後実施する凍土壁も本当に凍るのか?という疑問符がつきました。今回は検討会の議題の中でこの問題を取り上げてご紹介します。


1. これまでの経緯の概略

原子力規制委員会の特定原子力施設監視評価検討会では、昨年から一番高い潜在的なリスクとして、海水配管トレンチにたまっている高濃度汚染水が漏れ出すことをあげていました。

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(7/7 第24回監視検討会 資料1 2ページより)

このブログを読んで下さっている方はおわかりの方が多いと思いますが、上の図で緑色の海水配管トレンチは、2号機タービン建屋または3号機タービン建屋とつながっています。そして、この緑色の部分には2011年に漏れ出した高濃度汚染水がたまっているのです。

トレンチの水を抜こうとしても、タービン建屋とつながっているため、トレンチの水を抜いたらタービン建屋から汚染水が移動してくるだけで、現在の状態では建屋にたまっている汚染水をすべて抜き取らない限りトレンチを空にすることはできません。

そこで、上の図の青い部分をなんとかしてふさいでしまい「縁切り」をして、その後にトレンチの汚染水を抜いて、トレンチをコンクリートで充填するという事を2013年の夏からこの監視検討会で議論してきました。東電もそのための計画を立てて、昨年からモック試験を行うなどして準備を進めてきました。

そして今年(2014年)の4月になって実際にまずは2号機でトレンチとタービン建屋の間をふさぐための手段として、凍結管を何本もトレンチに挿入して冷媒を流して凍結させるという、凍土壁と似たような手法を用いて凍結を開始しました。

しかしながら、なかなか凍らないという報道が6月末にあり、その詳細が今回の監視評価検討会において報告されたという流れです。


2. パッカーを用いた止水の方法と凍結試験の結果

7/7の第24回検討会では、これまでの2号トレンチとタービン建屋で行われてきた工事について報告がされました。

手順としては、トレンチのタービン建屋接続部を凍らせてタービン建屋からの流入を防ぎ、トレンチ内の汚染水を移送、そしてトレンチ及び立坑部をコンクリートなどで充填し、その後に建屋接続部を解凍して充填するという予定で、現在はその最初の凍結段階です。

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(7/7 第24回監視検討会 資料1 3ページより)

凍結の方法ですが、トレンチの中は汚染水があるだけですので、上から穴を開けて凍結管を通し、そのまわりをパッカーと呼ばれるナイロン製の袋をつけます。

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(2013年8/12 第2回WG 資料1 51ページより)

そしてパッカーの中にセメントとベントナイトの混合物を充填し拡張させます。「これにより、凍結時に発生する水の対流を抑制し、凍結の向上を図る」というのが目的だそうです。そして、凍結管の中に冷媒を循環させて、パッカー内の間隙水を凍結させるとともに,周囲の水も凍結させ、氷の止水壁を作る予定でした。

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(7/7 第24回監視検討会 資料1 4ページより)

ただし、トレンチの中は配管やケーブルトレーが複雑に通っており、本当に凍るのか懸念されたため、東電は2013年の後半からモックアップ試験を別の場所で行っています。それらの経過はこの監視評価検討会や汚染水対策WGにおいて適宜報告されています。

2013年8/12 第2回汚染水WG 資料1 47ページ以降
トレンチの止水方法の概略が初めて示されたのはこの汚染水WGでした。この時にはいろいろな検討課題が示されています(資料53ページ以降)。

2013年8/21 第3回汚染水WG 資料2 39ページ以降
この時もいろいろな止水方法の案が示されています。

2013年9/30 第7回汚染水WG 資料2 34ページ以降
この時は、8/22にスタートした4種類の凍結試験の40日目の結果が出ていましたが、まだどれも凍結していませんでした。ちなみに、4種類とは下記に示した4パターンです。
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(2013年9/30 第7回汚染水WG 資料2 39ページより)

2013年10/15 第8回汚染水WG 資料1 37ページ以降
この時のWGでは、凍結試験の結果が細かく示されています(資料51ページ以降参照)。8月から10月まで2ヶ月かけて4種類のケースを想定して実験しました。そのうちケース1とケース4では40日かかって凍結しましたが、ケース2とケース3では50日かけても凍っていないという結果が示されており、凍結管を追加することになりました。
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(2013年10/15 第8回汚染水WG 資料1 42ページより)

ただ、この頃の議論では、こんなゆっくりとしか温度が下がらなくて本当に大丈夫なのか?という疑問が専門家の先生からでていた記憶があります。

その後汚染水WGはしばらく中断されます。そのため、このあとの凍結試験の詳細な結果については規制庁のWGや監視検討会には出てきていないように思います。

1/24 第10回汚染水WG 資料3
この頃になると、もう本番の凍結管をいかに設置するのか、という議論がメインになり、凍結試験結果の詳細は出てきません。ただし、一番厳しい条件であるケース2において止水性を確認したという写真が10/23のデータとして提示されていますので、一応凍結はしたのでしょう。
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(1/24 第10回汚染水WG 資料3 14ページより)

3/31 第19回検討会 資料1
この検討会においては、凍結試験の結果、止水壁がうまくできると予想されるというまとめがなされています。
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(3/31 第19回検討会 資料1 8ページより)

4/18 第20回検討会 資料7
もう、ここでは凍結試験の結果は出てきていません。本番の情報が新しくなっています。


3. 7/7の検討会での議論

7/7の第24回検討会では、4月2日から一部を、そして4月28日から全凍結管の凍結をスタートした2号機の止水工事の途中経過について報告がありました。今回は2号機の立て坑Aと呼ばれる部分の報告に焦点を当ててご紹介します。下の図の左下の図がトレンチと2号タービン建屋の接続部で、そこに凍結管と測温管をどのように設置したのかが示してあります。右下は断面図で、両側上部にはケーブルトレーがあり、下部には配管が数本通っていてパッカーによる凍結の障害になっていることがわかります。

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(7/7 第24回監視検討会 資料1 8ページより)

下の図には、断面図を用いて測温管で測定した温度(ただしこれは水温を直接測定したものではないそうです)の分布が凍結を開始してからどのように変化していったかを示してあります。青くなってくれば温度が下がって氷点下になっていることを示します。

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(7/7 第24回監視検討会 資料1 9ページより)

この下の3つの図は、凍結開始1ヶ月後の5/29と、2ヶ月後の6/29および7/4の温度分布が示されています。これをみたらわかるように、5/29から6/29にかけて青い部分が増えていますが、まだ全てが青くなっていませんし、5/29に青くなっていたはずの部分が6/29には緑色になって8℃以上になったりと、温度が少しずつ低下しているというものではないということがわかります。

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(7/7 第24回監視検討会 資料1 10ページより)

当日追加で配布されたグラフを見ると、S6の温度が5/29には-20℃だったのが、6/29には10℃になっていて、凍ったはずなのにまた溶けているというのがよくわかると思います。

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(7/7 当日配付資料 より)

どうして凍らないのか、その理由として東電はタービン建屋とトレンチの間には水の流れがあるからだと説明します。しかしその流速とは、最大でもわずか1分に2mmというものでした。1時間に12cmです。ほとんど動いていないようなものです。

ただ、注意しないといけないのは、みんなが懸念している凍土壁の場合、1F付近の地下水の流速は1日に10cm程度と言われています。もちろん、場所によってはもっと速いところがあると思うのですが、今回の1時間に12cmという速度を地下水の流速と比較した場合、かなり速いという言い方もできるかもしれません。その点だけは頭に入れて考えた方がいいと思います。

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東京電力は、当初予想していなかった水の流れがあったために凍らなかったので、今後は凍っていないケーブルトレーの下部にパッカーを追加したり、すき間にグラウトを注入したりするという対策を発表しました。

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しかし、原子力規制委員会の更田委員はこの結果と対策に不満でした。「冷却能力が足りなさすぎるのではないか?これくらいの流速で凍らないなんてナンセンスだから、もっとガチンガチンに凍らせて欲しい。」という指摘でした。特に「ガチンガチン」に凍らせるという表現はこの検討会の中で4-5回出てくるくらい何度もでてきました。

冷媒は-40℃で流していて-38℃で戻ってくるという報告がありましたので、そこから流量を計算すれば、どれだけの熱量が冷却に使われたのかは計算すれば簡単にでるはず、それを踏まえたら冷却能力が足りないとかそういう判断が出てくるはずなのにどうしてそれが出てこないのか?という指摘もありました。

「凍結能力を2倍にしてでもガチンガチンに凍らすという姿勢を示して欲しい。この程度の流速で凍結止水できないならば、凍土壁など無理。」という厳しい指摘もされています。これに対して、冷却能力の向上はすぐに検討するという東京電力の回答がありました。ただ、いつまでにというのは約束できない、ということでした。

また、温度の低下具合をみていると、実はパッカーが断熱材になっているのではないか?という指摘もありました。もっと熱伝導性のいい材料を用いる必要があるのではないか、という指摘もありました。

それから、配管の中を何が通っているのか?その中身が熱源となっていて、そのために凍らないのではないか?という山本先生の指摘もありました。

このようにこんなやりかたではダメで、もっと根本的なところから見直すべき、そして3号機に関してはすぐに取りかかるのではなく、2号機の立て坑Aをまず凍結させて、その後に取りかかるべきだ、というようなコメントが検討会での意見でした。

詳しいやり取りを知りたい方は、規制庁のYouTube動画や、コアジサシさんのtogetterのまとめをご覧下さい。


4. まとめ

この日の検討会での指摘は各マスコミも取り上げていましたのでご存じの方も多いと思います。

わたしなりに7/7の検討会を踏まえての現況を簡単にまとめておきます。これまでトレンチの凍結と凍土壁が全く同じだと思っていた人は、その違いを理解していただければ、それだけでも読んでいただいた価値があると思います。

1. 2ヶ月経っても凍結しなかった点

2号機立て坑A付近で4月末に凍結を開始し、2ヶ月経ってもまだ凍結が完了していないというのが事実です。
ただし、途中で確認したように、昨年8月から10月に行われた凍結試験においても、一番厳しい条件で実際のトレンチに近い条件(ケース2)では、50日経っても凍結していませんでした。その後何日で凍結が完了したか、という詳しい温度変化のグラフは公開されていないように思います。従って、2ヶ月(6月末)でやっと凍結していたとしても凍結試験の途中までの結果からすると試験結果通りです。そのため、2ヶ月もかかって凍結しないのは問題だ、という非難は的外れであると言えます。時間がかかるのは予定通りなのですから。

2. 今後凍結できる見通しがあるのか?

東京電力は7/7の検討会でいくつかの案を提示しています。しかしながら、更田委員はじめ専門家の先生は、そもそも冷凍能力に問題がある(不足)のではないか?という疑問を示しています。従って、凍結能力の増大という手段が今後とられると思います。これについては、次回以降の検討会での結果を見てみないとなんともいえません。

ただ、最終目的はトレンチとタービン建屋の切り離しですので、この日の議論にもあったように思いますが、凍結が不完全であっても、トレンチの高濃度汚染水を全て移送して主トレンチを埋め立てることができれば、最終目的は果たせるかもしれません。

3.凍土壁は本当に凍結できるのか?

これについては、凍土壁も実証試験を行ってそこでは凍っています。7/7の検討会では流速の話も出ましたが、第6回の陸側遮水壁タスクフォースでは0.7m/日が限界だろうという試算をし、第8回の陸側遮水壁タスクフォースで冷媒の温度が-30℃では0.1m/日しか凍らないが-40℃にすると0.7m/日でも凍るという実験結果を出しています。

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(3/18 第8回陸側遮水壁タスクフォース 資料1-2 4ページより)

このことから、冷媒の温度を下げれば0.7m/日、つまり3cm/時間の流速までは凍らせることができるというデータがでているのです。

つまりこのような事が言えると思います。
・トレンチのパッカーによる凍結は、水を直接凍らせるという手法であり、土を凍らせる凍土法とは若干違います。
・また、トレンチの凍結試験の最終的な結果は、細かいデータとともに公表されていない(と思う)という点で、タスクフォースでデータが細かく公表されている凍土壁とは異なります。
・汚染水の流速が問題になりましたが、1F付近の地下水は一般には1日10cmと言われていますが、凍土壁の試験では70cmまでは凍結が可能であるという試験結果がでているため、これ以下の流速の場合は予定通り凍る可能性があります(それより速い流速のところがもしあれば凍らないでしょう)。
・トレンチの凍結試験の段階で、その手法の問題点を指摘できなかった規制委員会側にも非がある可能性があります。彼らは凍結試験の詳細なデータをどこまで確認していたのでしょうか?

一方で、他の汚染水対策でもそうですが、
・東電の当初の想定が甘く、やってみて失敗してはじめて問題点がわかるという事例をこれまでもくり返しているため、凍土壁についても同様の問題が起きる可能性はかなり高いと言えます。
・しかし、今回は東電だけではなく、鹿島も事業者として入っているため、これまでとは違った視点でのチェックが働く可能性があります。

これらのことから、私は、トレンチが凍らなかったから凍土壁も凍らない、と単純に決めつけるのは間違っていると思います。もちろん(他の汚染水対策同様に)想定外の事態が起こって凍らない可能性もあると思います。でも私は、凍土壁の課題は、凍ったけども地下水の水位がコントロールできないなどの別のポイントで起こるのではないかと危惧しています。

なぜトレンチが凍らない可能性を凍結試験段階で見抜いて方法を変更させられなかったのか、規制委員会にはその反省を踏まえて、凍土壁が完成して実際に凍らせ始める来年3月頃までに凍土壁の問題点を見抜いて、対応を取らせて欲しいと期待したいと思います。凍土壁は「ガチンガチン」に凍らしてもらいたいものです。

 
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コメント

比熱と熱伝導率

7/7の検討会の前に、被規制者等との面談概要・資料を読んでいて、気がついた事があります。

6月27日の東京電力福島第一原子力発電所における変更認可申請(建屋海水配管トレンチ間止水)に係る面談にて、議事要旨を読むと、
http://www.nsr.go.jp/disclosure/meeting/FAM/data/20140627_02_giji.pdf
① 凍結管の径及びパッカー内のセメントベントナイトの物性(比熱など)につ
いて説明すること。
② 送りと戻りにおける冷却材(ブライン)の温度差については、現状のみなら
ず、これまでの実績についても説明すること。

と原子力規制庁から対応を求めています。資料を見ると②については回答があるのですが、①のパッカー内のCBの比熱などについては回答がありません。

これについて、7月8日の金城室長出席の面談でも再度質問が行われました。
http://www.nsr.go.jp/disclosure/meeting/FAM/data/20140627_02_giji.pdf
○原子力規制庁から、パッカーの除熱能力に関する評価については、随時結果を面
談等にて報告することなどを求めた。
----------
しょーがないので、自分で調べてみました。
■物体の物理的性質一覧によると、一般論として
http://www.ohm.jp/download/technical/tech_05.pdf
水の比熱は、4.178kJ/(kg・K) 熱伝導率は、0.63W/(m・K)です。比熱は数値が小さいほど凍らせるエネルギー効率がよく、熱伝導率は高いほど冷たさが伝わりやすい。

このことを踏まえて、他の例の物性と比較すると

大地(湿度 10%)   比熱1.842 熱伝導率0.60
コンクリート(乾燥) 比熱0.879 熱伝導率0.90
粘土(湿度 50%) 比熱2.512 熱伝導率1.28
鉄         比熱0.460 熱伝導率75.36

大地は、水より比熱が小さいですね。つまり、水よりエネルギーが少なくて済む。コンクリートは、比熱も熱伝導率も良いですから、金属系を除いて、パッカー内部の充填材としては、適しているといえます。粘土は(これがベントナイトと同義ではないですが)熱伝導率は良いのですが、比熱が大きめで、エネルギーを喰います。つまり、コンクリに混ぜれば混ぜるほど、冷凍能力を上げないといけません。(また、上記データは、含水率が上がると、水の特性に近づいていくと思われます)

ベントナイトは、この他にも海水に養生すると(浸けていると)、膨潤率が下がるという特性があるようです。

東電は、規制庁に対して、一刻も早く、パッカー内のCB混合率(他の添加物も含めて)や物性を明らかにするべきですね。それが今後の凍土壁工事にも役立つと思います。

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3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごしました。元つくば市民として、震災後のニュースに触れながら感じたこと、考えたことを書いていきます。独自の視点でのわかりやすいまとめをしていきたいと思います。
放射能汚染水と海洋汚染、お米の放射能汚染、微生物などの話題を中心にまとめていきます。何か事件があれば速報性を重視した話題も取り上げる予定です。

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