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社説

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刑事司法改革 バランスを欠く結論だ

(07/11)

 密室の取り調べで自白強要や誘導をなくし、冤罪(えんざい)を防ぐ。3年かけた論議は、その最大の目的を見失ったと言わざるを得ない。

 刑事司法改革を検討してきた法制審議会の特別部会が最終案を了承した。法制審総会での決定、答申を経て、法務省は来年の通常国会に関連法案を提出する方針だ。

 焦点は取り調べの録音・録画(可視化)を義務づける範囲だった。しかし、結果は殺人をはじめ裁判員裁判事件などに限定した。

 不十分極まりない。全事件を可視化すべきだ。

 一方、電話やメールなど通信傍受の対象犯罪の大幅拡大など捜査手法は強化される。

 バランスを欠くと言うしかない。法制審が総会で追認するようなことがあってはならない。

 改革論議は、足利事件など冤罪事件や厚生労働省文書偽造事件をめぐる大阪地検特捜部の証拠改ざんなどで捜査機関が失った信頼の回復と再発防止のため始まった。

 部会の初会合で当時の法相は「広く国民の声を反映した審議が必要だ。各界の有識者にも相当数加わっていただいた」と述べた。「刑事司法ムラ」の発想だけでは難しいという当然の判断だ。

 ところがどうだ。

 厚労省事件で無罪が確定した厚労事務次官村木厚子さんら有識者委員5人は全事件の原則可視化を求め、異例の意見書を提出した。冤罪は事件を選ばないからだ。

 対して捜査側の委員は、供述が得にくくなると範囲限定を主張した。結局、これが通り、対象は全事件の3%程度にとどまった。

 法相が言った「国民の声」からほど遠い結論だ。

 仮に裁判員事件などから始めるとしても法制審は全事件に拡大するまでの道筋を明示すべきだ。

 捜査の反省から始まったのに、権限は「焼け太り」する。

 代表格は通信傍受の拡大だ。憲法が保障する「通信の秘密」を脅かしかねないから対象犯罪を薬物、銃器など4種類に限っている。そこに組織性が疑われる詐欺、窃盗など9種類を加えるとした。

 傍受が憲法上許されるのは重大犯罪の捜査で真にやむを得ない場合とした1999年の最高裁決定に照らしても疑問が拭えない。

 容疑者が他人の犯罪事実を明かすと見返りに起訴を免れる司法取引も導入される。対象は経済犯罪などだ。責任逃れで他人を冤罪に陥れる恐れがある。

 こうした点からも全事件の可視化が不可欠なのは明らかだ。

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