全国で、そこでしかできない体験を提供する、エコツーリズムガイドという仕事をする若い人が少しずつ増えています。たとえば世界遺産の屋久島は、非常にガイドの人気が高く、ガイドは儲かっていますし、人口も増えています。一方、北の知床・摩周湖・屈斜路湖などは逆にどんどんお客さんが減り、旅館が次々と潰れています。あれだけ観光資源があるのに、なぜうまくいかないのか?それは、農業に携わってきた人と観光を推進している人の間に連携がなく、地元のものを出そうという意識もなければ、どうしたらよいのかさえわからない状態だからです。
観光は総合産業ですから、地域にいる農家や漁師、建築をやっている人など、関係者が全員で地域づくりをきちんと進めていく必要があります。そうすると、お客さんから見ても多重に魅力が増えていくことになります。そうやって手段を少し変えるだけで、雇用は確実に増えていくでしょう。
最終目標としては、一度は出ていった地元の子どもたちが、「やはり地元が一番よかった」と帰ってくる地域をつくることです。そのためには、他人に見てもらい、「素晴らしいところだね」と褒めてもらう経験を若いうちにしておくことが大切です。そうすれば、「地元はだめだ」と出ていっても、いつか「うちの町って、すごくいいところじゃないか」と気がつくのです。従来、東北はそういう、地元ならではのものを見せて時間をゆっくり消費してもらうという取り組みが大変少ないところでした。しかし「災い転じて福となす」で、震災以降はそういうことができる人がたくさん入ってきています。
被災して地元を離れた人も多かったのですが、戻って来て地元の魅力を再発見する人も増えました。特に三陸は、地元に滞在し、ゆっくりお金を使ってもらう観光を一気に増やすチャンスが多い地域です。そこでしか採れない、素晴らしい海産物が多いからです。ただ、ちょっと心配なのが、防潮堤をつくりすぎたりして、景色がどこも同じになってしまったということ。何百も同じような漁村がありますので、そこにしかない“すごさ”をぜひ見出してほしいです。
それは物というよりは人の魅力、そこで生きている人の個性です。「あの人たちはがんばっていますね」「あそこに行って話をしたら、すごく楽しかった。もう1回行きたいです」「イケメンの人ががんばっている」「おばちゃんが元気にやっている」など、人間の魅力でどれだけアピールできるかが重要なのです。
世界的に鉄道が見直されつつあるなか、鉄道をどんどん廃線にしている国は、先進国のなかでは日本だけではないかと言われています。ちなみに世界のあちこちには、廃線になる鉄道を引き受けて再生するビジネスがあります。たとえば日本でも、岐阜の市電を廃止する話があったとき、それを引き受けようという話が海外からありました。あるいは国内でも、岡山の両備運輸、両備グループが鉄道再生を引き受けています。また和歌山では、南海貴志川線を引き受けて再生した和歌山電鐵が、国際的な観光名所になっています。
東京ではあまり知られていませんが、和歌山電鐵の「たま電車」という鉄道が、「たま駅長」という猫の駅長がいる駅をつくったのです。そこにはアジアの団体さんがたくさん訪れ、結果として黒字化しています。そうやって、廃止しようというローカル線を再生する手段がもう存在するのです。にもかかわらず、日本国民の9割くらいは、「鉄道なんて赤字だからやめるのが当たり前」だと思っているのではないでしょうか。
道路も同じです。距離は鉄道の何万倍も長いはずですが、一部を除けば、地方の道路にはほとんど車が通っていません。常にビュンビュン車が通っている道路なんてそんなにありませんよね?だからといって「この道路は無駄だからやめるべきだ」ということにはならない。しかし、鉄道だと不要だと言われる。それは、鉄道は民間が一から経費を計算して運営し、赤字も黒字もちゃんと発表しているからです。しかし道路では、そのようなことは言われません。
道路は清掃をしていますし、街路樹もあります。除雪もしなければいけませんし、アスファルトはすり減っていくので張り直す必要があります。つまり、実はすごくお金がかかっているのです。いろいろな計算がありますが、日本全国では安く見積もっても年間4兆円はかかっていると言われています。ということは、10年で40兆円です。これは国鉄が残している債務より多い。ですから、道路は基本的に赤字です。そしてそれはすべて、国民の税金で運営されているのです。
そもそも、道路には無条件に税金を投入するのに、鉄道には一円も入れないという考えはおかしい。費用対効果を考えるべきです。いまある電車をメンテナンスして走らせるのと、廃止して道路に造り替えるのとでは、どちらがお金がかかるのでしょうか?実際に計算してみると、道路にしたおかげで100倍以上お金がかかるケースがあるのです。つまり道路に年間何兆円も使っているお金の100分の1でも鉄道に回せば、相当程度の鉄道を維持できてしまうのです。
電車を廃止して、同じ路線をバスに替えると、お客さんの数は平均して3分の1になると言われています。つまり人件費が同じでお客さんが3倍乗るなら、電車にしておいた方がよいわけです。線路を残すのに多少はお金がかかりますが、道路に注ぎ込んでいるお金の一部を回せばできるのです。鉄道ならよそから来た人も使いやすいですし、地域のシンボルになりやすい。だからこそ、がんばって残した方がよいのではないか。それこそが、富山や福井を筆頭とする北陸、それから九州など、先進事例が多く「わかっている地域」のコンセンサスです。
(FM TOKYO「未来授業」2014年6月2日(月)~6月5日(木)放送より)
(2014年7月11日公開)
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【藻谷浩介(もたに・こうすけ)】
日本総合研究所 調査部 主席研究員。専門は、まちづくり、観光振興、産業振興、人口成熟問題。
『デフレの正体』『里山資本主義』などベストセラーに。
新書は『藻谷浩介対話集 しなやかな日本列島のつくりかた』。
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