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未来授業~明日の日本人たちへ 藻谷浩介さん~「人間が棲む場所」としての地域を守っていくために、私たちがすべきこと

2014年07月11日

 今回の講師は、日本総合研究所調査部主席研究員で、地域エコノミストの藻谷浩介さん。まちづくり、観光振興、産業振興、人口成熟問題がご専門で、地域経済、観光、人口動態を詳細に調査し、講演活動を行われています。

 まちづくりの専門家という立場から、地域と人との関係性について、さまざまな考え方を伺いました。

商店街が生まれた理由、残すべき理由

 商店街と大型店では、後にできたのは大型店だと思っている方が多いかもしれませんが、実は違います。まず戦前に大型店がたくさんでき、大きな呉服屋さんやその周辺が次々とデパートになっていったのです。戦前は弱肉強食の社会で、「中小商店は淘汰されればいい」という風潮でした。そこで商店同士が団結し、「デパートに対抗するぞ」という思いを軸に、各店が品揃えを補い合ってつくったのが商店街組織なのです。つまり商店街は、ただ店が並んでいるだけのものではありません。きちんと組織になっていて、「こういうふうに並べて、町をこうつくるぞ」という考え方に基づいてつくられているのです。ですから、いまシャッター商店街が増えているのは、「がんばったけれども、うまくいかなくなってしまった」ということなのです。

 かつて、商店は家が守るものではありませんでした。むしろ戦前の商店は会社組織に近く、たくさんの丁稚さんを抱えていて、場合によってはそのなかから番頭さんとして優秀な人が跡を継ぐというかたちで維持されていました。しかし戦後になると使用人を抱えることがなくなり、一家で経営していくスタイルに変わったのです。ですから一家の息子さん、娘さんが「家を継がないで、もっといいところに就職する」と出ていってしまうと、跡を継ぐ人がいなくなる。2軒に1軒の割合でそういうことが起き、更地状態、もしくは開店休業状態になると、商店街全体にも人が来なくなります。いわば、稼業として続けていくという原理自体が、21世紀には合わないのです。同じようなことはどの産業にもありますが、特に商店街においてはっきりと見えてしまったわけです。

 このような現象は地方でも東京でも同じで、地域差はまったくありません。例外的に老舗が成り立っているケースは、「◯◯塗り」「◯◯焼」といったような伝統産業です。それらは非常に重要な商売として成り立つので、跡取りがなんとか戻ってきて、かろうじてつながっているのです。ただしそういった老舗は、おそらく10軒に1軒もないでしょう。

 このことについて議論するたびに「昔の商店街的なものは大事だよね」という結論に行き着くのですが、それは「やる気のある人が店員としてではなく、経営者として小さい店を出せる空間が必要だ」ということです。大きな敷金、礼金を払えないと入れないショッピングモールだけではなく、見知らぬ人が通りがかりに覗いてくれるような場所で、月に何万円か払ったら店を出せるような場が必要なのです。

 もちろん、失敗もあるでしょう。けれども、修行しながら試しにいろいろな店を出せるような空間は大事です。どんなに廃れた地域にも、中心街に店を借りて自分の好きな商売をしたいという若い人は必ずいます。ですからそういう人を支えていって、みんなが入ってこられる場所としての商店街を再建しなければいけないのです。地元にしかないものを、地元の人たちが手作りで出せる場、しかも、はるか彼方の観光施設ではなく、本当に暮らしている人が使う場所。実はそういうものがあった方がよいということを、もう少し考えるべきです。

ゆるキャラは、本当に地域を救うのか

 次に、観光について考えてみたいと思います。観光とは産業です。人を食わせるためのもので、その地域が生きていくために必要な手段です。お金を儲けてちゃんと地域を回していくための、生きていくための手段としての観光という観点でいうと、B級グルメやゆるキャラにはほとんど意味がありません。なぜなら、お金が儲からないからです。

 本来、日本は非常に物価の高い国です。そんななか、B級グルメは発想としてはおもしろいのですが、原価割れして、やっている側が損しているものが圧倒的に多い。さらに言いますと、本来グルメは旅行、観光の世界のものです。わざわざ食べに行くのですから、ご当地で採れるものを使うのが基本です。その場所の独自の食べ方であるだけではなく、そこで採れたものを使うようにしないと、どこでも真似ができてしまうのです。

 たとえば台湾にも、讃岐うどんの店があります。しかし、台湾の讃岐うどんの店がどれだけ流行っても、おそらく香川県には一円も落ちません。そもそも香川の讃岐うどんが輸入小麦を使っているのですから、同じ機械さえ用意すればどこででも真似できてしまうのです。しかし本来なら、香川県の讃岐でしか採れない特別な小麦粉を使い、独自の製法でつくったうどんだけが讃岐うどんと呼べるはずです。それはB級ではなくA級ですから、「ご当地で高い値段を払った人しか食べられません」というかたちにしておけば、まがい物が大量に発生することはなかったのです。

 たとえば「富士宮やきそば」は、静岡県の富士宮でしか食べられません。そして食べに行くとわかりますが、明らかに味が違います。ご当地でしか使わない「肉かす」が入っているからで、これは立派なご当地グルメなのです。ところが同じように「○○焼きそば」とうたっていながら、地元産の素材をまったく使わず、どこででもつくれるものが多い。しかしそれだと真似されて、単に名前が知られるだけで終わりということになります。

 そうなると、地元の雇用が増えない。それではいけないのです。観光振興とは、あくまでも地元にしかできないもの。現地で素晴らしい経験をした、おいしいものをいただいたという人たちから「また来ましょう」と言ってもらい、雇用をひとりでも増やすのが観光産業なのです。

 「ゆるキャラ」もそうです。ゆるキャラで知名度を上げようというアイデアは、マスコミ的、イベント的にはおもしろいかもしれません。しかし、地元で安定的に5~10年続く雇用を増やすという意味では、ほとんど効果がない。ですから、単に知名度を上げようとするだけではなく、もっとまじめに考えて、雇用を増やすために考えることが重要です。

 「名前が売れれば売り上げがついてくる」と思っている方も少なくないでしょう。たしかに高度成長期までは、そういうこともありました。しかし、いまはそんなことでものは売れません。本当に「繰り返し訪れたい」と思わせるためには、真のおもてなしや、そこに行かないと味わえない別の価値をきちんとつくらなければならないのです。「いまだけ」「ここだけ」「あなただけ」というものをつくっているか否かが重要なのです。

 そこで採れる季節のものを食べ、説明を聞いて、ゆっくり楽しんだら、とてもいい時間が過ごせた、というような地域には、また繰り返し訪れるものです。観光というのは、幾度となく人が足を運ばなければだめなのです。



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2014年07月03日

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【藻谷浩介(もたに・こうすけ)】
日本総合研究所 調査部 主席研究員。専門は、まちづくり、観光振興、産業振興、人口成熟問題。
『デフレの正体』『里山資本主義』などベストセラーに。
新書は『藻谷浩介対話集 しなやかな日本列島のつくりかた』。



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