引き続きカゲプロについて。前回、僕はカゲプロを評して、セカイ系的であり、20代以上の男性を阻んでおり、批評をあまりされていないと言うようなことを書いたけれど、そのあたりについてもうちょっと書きたいと思います。
前回の記事でもさやわかさんの名前を出しましたが、カゲプロがまったく20代以上男性にリーチしていないといったらそれは間違いになります。何故なら僕自身も20代男性だし、さやわかさんだけではなく村上裕一さんや坂上秋成さんもカゲプロに言及していたりするし、そもそもこの作品をそうした批評系の人々が完全放置するわけはないとも思います。
ただ、例えばカゲプロがkeyなどの作品の系譜に連なるとか、ループもののセカイ系の文脈に乗っているとか、今まで、男性向けサブカルチャーが作ってきた流れのなかにカゲプロが組み込めて、それらと似たような形で消費できるのかと言うと、僕はそれは違うのではないかと思っています。セカイ系的だとは思うのですが、それは今までのセカイ系の続きだと言う意味ではないのです。
カゲプロは、「女子向け文化のなかに登場したセカイ系作品」として、新しい、というか、はじめての作品なのではないか、というのが僕の現段階での見方です。女子向け作品のなかにセカイ系が登場したのが、実際はじめてなのかどうかは正直把握できていませんが、そんな感触を僕は感じています。
今までいわゆるセカイ系と称されていた作品の大半が男性向けであったことはおそらく間違いではないはず。もちろん今までセカイ系を女性読者がまったく消費できなかった、などということはありませんが、今までのセカイ系における「君と僕」は、女の子と僕のセカイ、であって、男の子と私のセカイ、ではなかったはず。
女子にとって、要するにカゲプロは、はじめてストレートに消費できるセカイ系、なのです。そこに先行作品の存在は、おそらくないのです。だから僕は、カゲプロがセカイ系やループものとして先行作品にどういう応答をしているか、ということを論じることや、どのように従来と物語構造が違うか、ということを論じることに、そんなに意味がないと思っています。そう、先行作品との明確な違いは、ターゲットが女子である、その一点がかなり明確なものとしてあると思うからです。
ここでついでに、男子中学生にとってのカゲプロについて触れておきます。僕は統計をとったわけではないので、なにかの実証があるわけでは一切ありませんが、僕は男子中学生へのカゲプロの届き方がかなり微妙なかたちになっていると推測しています。もちろん、この作品のセカイ系的な部分を非常にストレートに受け止めることのできる男の子もいると思います。ただしそれは、かつて男子向けセカイ系作品を読んでいた女の子もいるということと同じことであって、ジェンダーがグラデーション的なものであるという話に過ぎないというのが僕の現状認識です。おそらく大半の男の子はストレートではなく、変化球的にカゲプロを消費しているのではないかと思います。自分のために作られていないのが分かるけど、セカイ系要素が刺さってしまって、いちおう面白がってはいる、みたいな男の子が多いのではないかと。そして、その中には、自分たち男に向けで作られていないことに反発感情を抱き、攻撃的にカゲプロ批判に走っている男の子もいるかもしれません。
僕がそのように感じるのは、かつて僕がセカイ系的な作品に愛着を感じたとき、特に美少女ゲームなどの作品が、自分のための作品ではないことを非常に歯がゆく思ったことがあるからです。(セカイ系の構造に惹かれてはいましたが、僕はゲイなので、美少女ゲームを熱狂して消費することはまったく出来なかったのです)
僕はこれからこのブログで何度かに渡ってカゲプロを語りたいと考えていますが、そのなかで視点として重要だと考えているのは、第一に「中二女子向け」という部分です。
「中二女子向け」というジャンルは、一部の人々からレッテルを貼られ、下に見られ、軽蔑されるジャンルだと思います。「カゲプロ厨」という言葉はその象徴です。しかしゆえにこそアウトサイダー的で、面白くなっていくのではないでしょうか。
まだまだ考え始めたばかりで、あと、いまちょっと眠い中iPhoneでぽちぽちブログ書いてる感じなので、まとまっていないような感じもありますけれども、次も中二女子向けの物語というものをもうちょっと考えて書いて行こうと思います。