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かすむ復興/まちづくり/巨大防潮堤の足元(1)見えぬ目的 募る不信

高さ9.7メートルの防潮堤が計画される石巻市雄勝地区の中心部。住宅地や幹線道路は高台に移転する=6月中旬

<役に立たない>
 「一体何のために建てるのか」
 石巻市雄勝地区の自営業阿部晃成さん(25)は、宮城県が進める防潮堤計画への不信感を隠さない。住民団体「雄勝町の雄勝地区を考える会」の事務局を務めている。
 雄勝湾奥部は、海岸から80メートルほど後方への防災集団移転を予定する。新たに宅地を整備する土地は海抜20メートル以上の高台。県が予定する海抜9.7メートルの防潮堤は、民家を守る点では役に立たない。
 海岸と高台との間に広がる空間は、市が公共用地として活用する計画になっている。防潮堤とほぼ同じ高さまでかさ上げし、商業施設や艇庫を配置する。
 「防災上の観点から、公共スペースの海側にある盛土斜面をコンクリートで守る必要がある」。宮城県河川課は防潮堤の意義を強調するものの、阿部さんは納得できない。「整備費が無駄になるだけではないか」

<住宅再建急ぐ>
 そもそも公共スペースのかさ上げは、防潮堤で遮られる海の眺望を確保するのが狙いだった。地元自治体関係者によると、防潮堤計画が持ち上がらなければ、平地のまま公園などに転用する選択肢もあったという。
 では、なぜ県計画に異論を唱えなかったのか。「市としてはのむしかなかったんだ」。経緯を知る職員の一人が解説してくれた。
 防潮堤の要不要の議論が沸騰すれば、宅地造成を含む復興事業自体が遅れる可能性があった。この職員は「早期の住宅再建のために住民を説得した」と振り返る。
 防潮堤ありきとも言える復興計画には、ひずみも生じている。
 公共スペースにできる商業施設へ入居を検討する地元業者は、皆無に近い。青果店を営む佐藤勝則さん(72)は「顧客は高台に移る。宅地から離れていては商売にならない」と突き放す。

<無人島に計画>
 防潮堤の存在意義が問われる事例は雄勝地区にとどまらない。
 宮城県は、塩釜市の浦戸諸島にある四つの無人島(鷺島、大森島、馬ノ背島、漆島)で防潮堤の復旧計画を立てた。20億円を投じ、地盤沈下や亀裂の補修に取り組む腹づもりだった。
 当初の目的は「農業振興」。しかし、4島の農地が東日本大震災前から耕作放棄されてきたことが問題視されると、あっさりと「土砂流出防止」に切り替えた。
 現地査定せず、営農方針の確認すらしていなかったのが要因だった。県農村整備課の担当者は「当時は海中がれきが多く、島に近づけない状態だった」と弁明する。
 結果的に、補修は最低限のレベルにとどまる見通しになった。「無駄な予算は使えない」と農林水産省防災課。後付けとも言える事業計画に、国はつれなかった。

 東日本大震災で被災した東北の太平洋岸で総延長400キロ、総額8000億円の防潮堤計画が着々と進む。津波から住民の命と財産を守るはずの「防壁」の建設に、各地で反発の声が上がっている。復興まちづくりの前提ともなる巨大プロジェクトの足元で何が起きているのか。現状を追った。(震災取材班)=4回続き


2014年07月14日月曜日

関連ページ: 宮城 社会 特集

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