Updated: Tokyo  2014/07/14 12:03  |  New York  2014/07/13 23:03  |  London  2014/07/14 04:03
 

後継者難の日本企業救え、CITICや米ゴードンが承継ビジネス (2)

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  7月14日(ブルームバーグ):静岡市清水区で豆類や海藻などを扱う乾物屋「蒲原屋」を営む金子武さん(71)は2年前まで、父親の代から60年余り営む家業の存続に悩んでいた。3人の娘が「外に嫁いで店からいなくなった」結果、後継ぎ不在となったからだ。

かつては神奈川や愛知の店にも卸売りしていたこともあり、「麻袋に代金の100円札を詰め込んでいた」と話すほど売れた時もあったが、スーパーなどの参入で年商はピーク時の8分の1に激減。しかし、これまでに築いた顧客のことを考えると店を「消したくない」との思いが勝り、外部に人材を求めた。2年前、静岡県などの仲介で食関連の起業を望む新谷琴美さん(41)への事業譲渡を決断した。

金子さんはなんとか後継者に巡り合えたが、世界的にも少子高齢化が進行する日本では、後継ぎ不在で家業の廃業が続出。伝統的な事業や優秀な技術が途絶えかねず、事業承継の必要性は増すとみて、中国中信集団(CITIC) や米ゴードン・ブラザーズなど国内外の金融会社がM&A(買収・合併)関連ビジネスに乗り出している。

東京商工リサーチの調べでは、昨年の中小企業の休廃業・解散件数は28943件と過去最高を更新。同社取締役の友田信男氏は、将来の事業展望への不安や「後継者難という理由が大きい」と話す。総務省が発表した日本の総人口は1億2643万人で、5年連続で減少。別の統計によると、総人口に占める65歳以上の割合は25%に対し、14歳以下は13%。

事業存続を模索する動きも見られ、M&A助言会社レコフによると、承継に絡む13年のM&Aは233件と10年比で倍増。CITIC傘下のシティック・キャピタル・パートナーズ・ジャパンの日本代表、中野宏信氏は「年200-300件ほど案件を見ているが、承継絡みは約8割を占める」と話す。

中国とつなぐ

後継ぎ不在に直面した同族会社には、存続に向けて社員や外部の人材から後継者を選ぶか、身売りという手段がある。金融業界としては、買い手企業に仲介したり、いったん投資して企業価値を高めた後にシナジー効果のある企業へ売却したりするM&Aビジネスが発生する。

中国系プライベートエクイティ(PE)ファンドのシティック・キャピタルの中野代表は、後継者難の中小企業のうち、「内需だけではやっていけない」という考えの会社を中国市場につなげようとしている。CITICグループは金融以外にも不動産、機械などを手掛けるコングロマリット。グループ企業に販売協力してもらうなど、「リソースを活用して日本企業が中国市場で抱える問題を解決できる」と強調する。

同社は10年、後継者難の同族企業でタッチパネル向けフィルム加工の東山フィルム(本社・名古屋市)を引き受け、投資した。中国子会社の再編や工場の生産性向上など合理化を実施。中国人労働者の削減という微妙な問題に直面したが、シティックには中国人と日本人のスタッフがおり、「両者の話を聴いて融和できる」と同代表は話す。

合理化に加えて、折からのタブレットや携帯端末の需要急増の追い風もあって、経常利益は引き受け当初の4倍に拡大し、将来の売却に展望が見えてきたという。同代表は、中国で社会問題化している福祉、環境、医療などの分野でも日本企業の技術移転につなげたい考え。

ゴードン・ブラザーズ

米系のゴードン・ブラザーズ・ジャパン(GBJ)は低利融資で攻勢をかける邦銀との競争が激化し、新規分野として、後継者難の中小企業に投資するPE事業を検討。ホームセンターやアパレルなどを対象に総額で最大100億円程度を投資する考えだ。

在庫など資産処分で身売りを助ける事業のほか、「やむなく廃業や清算を行う場合にも、事業の手仕舞いを全面的にサポートできる」と田中健二社長は話し、あらゆるケースを想定してサービスが可能という。

日本の金融機関でも事業承継M&Aビジネスに積極的に取り組むところがある。浜松信用金庫法人営業部の島津一暁氏は、買い手候補仲介などで後継者難の企業を助け「地域経済が維持されると、信用金庫の業績も安定する」と指摘。顧客との関係が良好になり「資金需要を発掘できる」とも述べ、金融機関同士の激しい競争の中で生き残りをかける。

身売りへの不安も

一方、国内独立系PEファンドのインテグラルの代表取締役パートナー、佐山展生氏は「米国のようにM&Aが当たり前の世界だとオーナーが変わっても違和感がないが、日本はM&A市場が成熟していない」と指摘。創業者や従業員にとって、ファンドの転売先が最大の不安だとし、出口での売却先選定時も社員の意見を最優先に聞くと述べた。

中小企業白書によると、事業承継を形態別(12年時点)にみると買収の割合は4%にとどまっているが、25年前の2.4%に比べわずかに上昇。親族継承は42.5%で一番多いものの、少子化を反映して急速に減少し、内部昇格39%や外部招へい14.6%に追い上げられている。

レコフの澤田英之リサーチ部長は、事業承継に絡むM&Aが伸び悩んでいる背景として、買い手のニーズが満たされる案件が多くないことを挙げたが、先行きについては、少子化の進行や内需の伸び悩みに加えて、徐々に「M&Aに対する認知度が高まりつつあり、市場は大きくなる可能性がある」との見方を示した。

待ったなし

政府は今年の「骨太の方針」で、中小企業の承継やM&Aの支援を行うとしている。中小企業庁企画課調査室の大山健一郎氏は、99年から12年にかけて全国の中小企業が2割減少しており、このままでは「地方経済を支えていけなくなる」と指摘した。

大山氏は成長戦略の観点では、事業承継は産業の新陳代謝を促す狙いがあると説明。後継ぎのいない企業でも、やる気のある人材が見つかりさえすれば「環境にアジャストして、今までよりも成長力のある企業に生まれ変わることは可能だ」と話す。

蒲原屋の場合、県事業引継ぎ支援センターの公募を通じ新谷さんが応募者26人の中から3回の審査を経て後継者に選ばれた。「店の信用や顧客、仕入れ先を継げるのは有利」と店の伝統に注目するだけでなく、乾物の料理教室に加え、将来は惣菜や甘味のカフェ併設を目指すなどアイデアも豊富。修業しながら完全に任される日を心待ちにしている。

同白書によると、日本の自営業者の年齢構成は12年時点で、70歳代が最も多く、大山氏は「経営者としては肉体的に限界に近い」と指摘。後継の人材をどこに求めるのか、見つからなければ身売りするのかどうか、といった決断は待ったなしだと話している。

記事についての記者への問い合わせ先:Tokyo 呉太淳 toh15@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Katrina Nicholas knicholas2@bloomberg.net持田譲二, 上野英治郎

更新日時: 2014/07/14 11:18 JST

 
 
 
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