今年新たにがんと診断される人は88万人という推計が先週末、発表された。

 がんと診断される人の3割強は20~64歳の働く世代だ。20~69歳だと半数近くになる。今後高齢者雇用が進めば、がんはますます「働く世代」の問題になる。

 医療の進歩で治療は入院から通院に変わりつつある。がんと診断されてから5年後の生存率は、ほぼ6割。がんの種類によっては9割を超える。がん治療は、仕事と両立できるところまで進歩してきている。

 ところが、現実は厳しい。

 厚生労働省の研究班によると、患者の3人に1人が依願退職や解雇で仕事を失い、東京都の調査でも、5人に1人が退職している。

 内閣府の世論調査を見ても、治療や検査のために2週間に1度程度通院が必要な場合「働き続けられるとは思わない」が回答の7割を占める。

 特に非正規労働者は短時間勤務や半日単位の休暇制度などを使いにくい実態があり、結果として退職せざるをえない状況に追い込まれがちだ。

 また、がんは「死に直結する病気」のイメージがまだ強く、患者自身も、診断を受けた時点で「すぐに仕事を辞めて治療に専念しなければ」と考えてしまうケースがある。

 こうした実態を踏まえて、厚労省の有識者検討会ががん患者の就労支援に関する報告書をとりまとめている。

 報告書は「時間単位や半日単位の休暇制度、短時間勤務制度の導入などが十分に普及してない」と指摘。柔軟に働ける態勢づくりを企業側に求めている。また、社員が休職している間、職場は、本人の就労に関する希望や、職場の課題を把握する必要も指摘した。

 企業にとって、医療の進歩に伴う患者社員への支援はまだ手探りの状態だ。支援が進むよう、報告書は、行政や医療機関に対して、がんについての一般的な知識や利用可能な公的制度、相談窓口などを企業と患者に周知するよう促してもいる。

 仕事は患者にとっての収入源であると同時に「生きがい」にもつながる。企業側にとっても、働き盛りやキャリアを重ねた社員を失わずに済むメリットがあるはずだ。

 治療と仕事が両立できるような企業社会にすることは、喫緊の課題と言ってよい。それは、がんに限らず、子育てや介護など様々な事情を抱えても働きやすい職場づくりにもつながっている。