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私立大学という日本の痼疾

ハフィントンポスト記事、一斉主義の就職活動が学生と企業の疲弊の元であるを拝読。「就活」ネタは既に消費尽くされていると考えている。それにしても、よくもまあ次から次へと新ネタが出て来るもので感心してしまう。ちなみに今回は、インターンを通じて事実上の採用活動を行う「青田買い」を禁止する規定を盛り込んだ政府方針を批判するものだ。
インターンシップによってその企業について深く知った学生が就職を希望し、一方で、有望と見込んだ学生を企業が勧誘して何がいけないのだろうか。ぼくには全く理解できない

この主張は何も間違っていない。確かに、大学2年生で憧れの企業のインターンシップに応募し、企業からも評価して貰い(相思相愛)、実質の内定を獲得し、余裕を持って残りの大学生活を過ごすというのは理想かも知れない。

しかしながら、そんなに巧く行くだろうか?大多数の学生は2年生の初めからインターンシップを始めたとしても何処からも内定を貰えず、3年生の後半から通常の「就活」に切り替え、4年生の今頃になっても内定を貰えないのではないだろうか?仮にそういう展開であれば、大学には入学金や授業料を支払っているだけの事であり、大学生活の大半をインターンシップや「就活」で企業回りをして過ごす事になってしまう。

私も、下記の通り、「就活」、「ブラック企業」、「金銭解雇」に関連して記事を執筆しハフィントンポスト経由公開した経緯がある。これらののテーマに共通するのは各個人の能力不足である。能力不足のため、就活生が100社を訪問しても、一つも内定を貰えない。能力不足のため、日本を代表する名門企業の正社員の身分を希望してもブラック企業以外勤め先が見つからない。現在の職場に勤め続けたいと希望しているが、能力不足のため金銭解雇されてしまう。

若者は何故就活に失敗するのか?
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「ブラック企業」問題を解決に導く処方箋とは?
「紛争解決システム」という名の「金銭解雇」について考える
成長戦略素案にこっそり盛り込まれた「金銭解雇」

結局のところ、随分と平凡かも知れないが、「大学生活を無駄にする事なく、しっかり勉強し自らの付加価値を高めるべし」という結論に帰着するのではないのか?文科省が公表する通り、大学・短大の学生に占める私立の割合は8割に達する。従って、「就活」、「ブラック企業」、「金銭解雇」に拘わる問題は重篤なものも含め私立大学での教育実態に起因する。こういった観点から、今回は参照記事を書かれた方が所属する東洋大学経済学部をサンプルにして論考を試みる事にした次第である。

■就活に不平等は付き物

これはマスコミの報道の仕方にも大いに問題がある様に思う。例えば、歴史のある製造業が来年度100名を採用する計画であれば、それをそのまま右から左に垂れ流してしまう。内訳を見れば、事務系が10名、理系が90名といったところが標準的だろう。問題なのは理系の90名である。私は地元の国立大学工学部を卒業しているが、40人の学科で4年生に無事進級出来、研究室に配属され、卒業研究を開始する頃には25名程度に目減りしていた。そして、その内の数名が研究室に紐づいた企業奨学金を受給し、大学院修士課程に進学した。更に1年後、残りの大多数も大学院に進学し、その多くが企業奨学金の受給を始めた。

要は、マスコミが過剰に報道し、ネットがネタがあれば騒ぐ就活などは何処にも存在せず、企業奨学金のオファーが所属する研究室経由あり、学生がこれを受諾する事で内定が事実上確定している訳である。理系の90名採用の内、多分過半数の50名程度はこういったやり方で採用されているのでは?と推測する。残りの採用に関しても、理系であれば指定校制度が標準であろう。残りの文系10名については、多分私立大学生にも内定獲得のチャンスはあるのかも知れない。とはいえ、人事部も出来れば東大生を筆頭に旧帝大や一ツ橋の学生に優先順位を置くのは止むを得ない。

先に文科省の資料を参照したが、私大の卒業生は全体の8割に達する。大学卒業生は年間50万人と言われているので、50万人×80%=40万人という話になる。一方、採用の枠は昔からずっと採用を継続している名門大学卒業生に大部分が押さえられてしまっている。残された、極僅かな席の争奪戦をこの40万人が「就活」と称し繰り広げている訳である。従って、私大生の就活が巧く行かないのは当たり前の話である。

東洋大学経済学部の入試科目と偏差値

私は私立大学の問題の根幹にあるのは少な過ぎる入試科目だと考えている。私大が入試科目を少なくするのは明らかに受験生を増やすのと、見かけの偏差値を高くする効果が期待出来るからである。しかしながら、副作用も甚大である。偏った勉強しかしていない人間は、どうしても対象に対し複眼的に観察する事が出来ない。問題解決に際し、あらゆる可能性を想定し最適の解決策を見出すとかいった、具体的な話になると弱い気がする。企業で使い物にならないという事である。

ちなみに、東洋大学経済学部の入試科目は3科目で高得点の2科目で合否判定という事であるから、現実的には「国語」と「英語」の2科目のみという話になる。

そもそもの話であるが、経済学を学ぶのに高校時代から数学を諦めてしまった様な人間に適正があるのか?といった疑問が生じる。運良く就職出来、海外営業部に配属されれば海外に出張に行くケースもあるだろう。今、ホットな話題はパレスチナ問題であり、アメリカ人、イギリス人に意見を聞かれても、地理を勉強していないからパレスチナの場所が分らず、歴史も勉強していないから「キャンプデービッドの合意」といわれても話題に付いて行けない気がする。

一方、偏差値は50強といったところの様であるが、上述の通り入試科目を2科目に絞り込む事で見かけの偏差値を高くしているので、企業からすれば信用出来ないのでないだろうか?その結果、内定が貰えないという結論になってしまう。

■東洋大学経済学部4年間の教育の中身は?

事の善悪は別として、企業人事部の採用担当者が就活生の人物評価で重視するのは大学入学時の偏差値である。失礼かも知れないが、東洋大学経済学部は可もなく不可もない凡庸な大学といった印象である。シグナル効果が期待出来ないといっても良いだろう。

仮にそうであれば、東洋大学経済学部4年間の教育の中身は他校に比較して抜きん出て素晴らしく、就活生は在学中に著しく成長した事を企業採用担当者に客観的正当性を担保しつつアピール出来なければならない。そして、東洋大学経済学部に限らずこれが出来ないのが私立大学の痼疾と思う。

少な過ぎる入試科目で怠惰な受験生を集め、偏差値を嵩上し、入学金と毎年の授業料をきちんと支払続ければ、その代償として卒業証書を発行する。そんな金で買った学歴が企業から評価されないのは寧ろ自然な結果ではないのか?

「就活」、「ブラック企業」、「金銭解雇」といった重篤なテーマについて、私大の教員が我事と捉え、問題意識を持って書いた記事を未だ読んだ事がない。何処まで行っても「政府」や「企業」の問題、謂わば他人事としての理解の域を出ない。その結果、大卒の8割に達する私大卒業者は、ある者は内定が貰えず、別のある者はブラック企業に職を得、その結果苦労を重ね、幸い上場企業に就職出来た者もやがて金銭解雇されてしまう。文科省も私大への補助金の中止も含め、従来政策の見直しの時期に来ている。

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