『背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか』(講談社)/ウィリアム・ブロード ニコラス・ウェイド著 牧野賢治訳
クラウディオス・プトレマイオス、ガリレオ・ガリレイ、アイザック・ニュートン……私たちが「偉人」と信じてやまない数多くの科学者の功績に、実は不正の疑惑があることはご存知だろうか?
今年1月末の発表、そして直後の論文の捏造・改ざん疑惑を端に発したSTAP細胞に関する一連の騒動は、いまでは科学者個人に留まらず、研究機関あるいは科学そのものへ嫌疑の目が向けられつつあるように感じる。とはいえ、まだ初期の段階では、今回の不正は、非常に特殊な科学者による非常に特殊なケースとして受けとめていた人も多かったためか、科学者個人をただ叩いている人がいまでも少なからずいるように見える。
もはや今回の問題は、単に科学者個人の問題として受け止めるだけでは十分でないだろう。論文の捏造は決して、ごくまれな特殊なケースではなく、ありふれたよくあることの可能性が十二分にあることを、本書は書き示している。紹介される不正行為は、プトレマイオスから現代まで、他人の論文をおよそ60編も盗用し科学者面していた詐欺師から、データが正確すぎることで不正に気付かれた科学者、教科書にのっているような偉大な科学者の不正行為まで、ありとあらゆるものだ。
競争が激化することで、論文が立身出世のための道具に過ぎない状況が生み出される。数多くの功績をのこした科学者と無名の科学者では、その評価にばらつきが生まれる。データから自分の希望通りのものを見出してしまう。社会の偏見がデータに投影されてしまう。師匠と弟子という絶対的な関係……。
どんなに偉大な科学者であろうと人間であることにかわりはない。なんらかの強烈な誘因が働くことで、あるべき科学の道から足を踏み外してしまうことは誰にでもありえる。そして、その誘因を働かせるような制度的な問題があり、行われた不正を十分にチェックしきれない制度的な問題がある。
まっとうに研究を行っている科学者がいるなかで、不正行為を行う科学者が問題視されるのは当然のことだ。だが、ただ科学者個人を叩くだけでは、同様の不正を防ぐ十分な対策にはならないのではないか。
今回の騒動を受けて緊急再刊された本書。今後、一連の報道をどのように見守っていくべきか、その道しるべとなってくれるに違いない。この機会にぜひ手に取っていただきたい。(評者・金子昂)
著者/訳者:ウイリアム・ブロード ニコラス・ウェイド 出版社:講談社( 2014-06-20 ) 定価:¥ 1,728 Amazon価格:¥ 1,728 単行本 ( 354 ページ ) ISBN-10 : 4062190958 ISBN-13 : 9784062190954
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