法制審:司法取引 冤罪生む懸念も 捜査機関には「武器」

毎日新聞 2014年06月30日 22時46分(最終更新 07月01日 00時29分)

 他人の犯罪の捜査に協力した容疑者や被告を有利に取り計らう「捜査・公判協力型協議・合意制度」(司法取引)が導入される見通しとなった。30日にあった法制審議会(法相の諮問機関)の特別部会の会議で法務省が示した取りまとめ案に盛り込まれた。捜査機関は新たな「武器」として活用したい考えだが、冤罪(えんざい)につながるとの懸念も残る。【和田武士】

 「刑事司法制度はバランスだ」。ある検察OBは、司法取引導入の背景をそう解説する。大阪地検特捜部の証拠改ざん事件で、取り調べの録音・録画(可視化)の法制化は不可避になったが、捜査機関側には「特に組織犯罪では可視化が全容解明の妨げになる」との懸念が根強くあった。取り調べによる真相解明が難しくなるなら、新たな捜査手法を確立して「バランス」を図るべきだという考えだ。通信傍受の対象拡大にも同様の背景がある。

 警察は当初「虚偽供述で捜査がかく乱される」と懸念して司法取引導入に慎重姿勢を見せていたが、法務省が4月に示した試案については「供述を得る手段を多様化するのに有効だ」と評価した。海外では警察官は司法取引に関与しないとされるが、導入される協議・合意制度では警察も一定程度関与できる仕組みが盛り込まれた。そのことが「姿勢の転換」につながったとの見方もある。

 犯罪被害者支援に携わる委員も「制度の導入で罪を軽くできると見越して犯罪をする人も出てくるのではないか」と慎重な意見を述べていたが、殺人などが対象外となったこともあり、賛同を表明した。

 一方で、慎重な意見もある。日本弁護士連合会の司法改革調査室長を務める河津博史弁護士は「うその供述によって、冤罪が引き起こされる可能性がある」と指摘。協議や合意には容疑者や被告の弁護人も関わるが、司法取引によって捜査対象となる側には、取引の経緯は分からない。河津弁護士は「取引したことで供述がどのように変化したのかチェックできるよう、取引の対象となる犯罪については取り調べの可視化が必要だ」と述べた。

 こうした懸念に対し、検察関係者は「協議・合意制度は他人を売って自分の罪を軽くしようというもの。しっかり供述を裏付けする必要がある」と話す。特別部会では、裁判所の委員も「信用性に疑問符、留保を持って証言を聞くことになる」と述べ、慎重に取り扱う姿勢を強調した。

 ◇「通信傍受」対象犯罪も拡大

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