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日本のクリエイティヴは「製造業」たりえるか?:『シドニアの騎士』にみるCGスタジオの起死回生

 
 
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TEXT & PHOTOGRAPHS BY ASSAWSSIN

太陽系滅亡から1000年——人類の命運を賭けて航行する播種船シドニアの姿は、日本を飛び出して新天地を求めたポリゴン・ピクチュアズと重なる。/『シドニアの騎士』©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

海外とのコラボレーションでは、物理的な距離が最大の障害となる。通訳スタッフの拡充によって言語の問題は吸収できても、時差は吸収しきれない。アメリカと日本での同時作業──たとえば電話会議を繰り返すことが、深夜業の増加につながる。それはビハインドといえないのか? そう尋ねると、塩田からは意外な答えが返ってきた。やりとりは電子メールが基本。完成した動画を海外に送り、チェックしてもらい、コメントが文字列として返ってくる。半日程度のタイムラグはさほど問題にならない。「問題になってはいけないのだ」という。

「リアルタイムな議論に左右されていたら、大量生産なんてできません。膨大な映像をつくるわけだから、いちいち『これ何やったっけ』とか聞いてるようでは、絶対間に合わないんです」
 
だから、あらかじめ完成品のイメージを固めておくプロセスを重視している。いわゆるプレビズ(プレビジュアライゼーション=やや低いクオリティで仮のCGを作成し、アングルやタイミングなどを検討する作業)である。

「ラインに流れていくと何十人が関わるから、そこでああだこうだ、違う違わないみたいなことをやると一番コストがかかる。でもプレビズで関わる人間は圧倒的に少ない。だからラインに乗せる前に最終成果物のアイデアをしっかり練る。クリエイティヴな要素をきっちり決め込んで、それから一気に流し込もうということですね」

日本の小規模なクリエイティヴは「阿吽の呼吸」が前提になっているという。だが大規模になり人が増えるほど価値観は多様化する。イメージの共有に困難を伴う。ポリゴン・ピクチュアズではプレビズを充実させるべく、ゲーム開発用の美麗なリアルタイムCGツールの導入も検討中だ。「改善」に次ぐ「改善」──彼らが量産体制を支えるマインドは、まさしく製造業そのものである。

「先日うちの社員が、電機メーカーの制作管理体制を見学しに行ったんです。月に700個も改善のアイデアが出るらしいんですよ。それを15年も続けてるっていう…半端ないですよね。われわれはその足下にも及ばないけれども、日本の製造業が歩んできた改善のプロセスはアニメーションの現場でも可能だと思うし、もっともっと推し進めていきたい」

塩田はときおり異業種を例にあげ、「引用」しつつ経営を語る。過去の事例をくまなく探ろうとする。

「自動車メーカーのフォードも、最初は一品一品を少人数でつくっていた。いわゆる工房だった。でも大量生産という局面にぶつかって、だからこなすためのアイデアがたくさん生まれて…そう考えると、日本の映像業界はあいかわらず工房どまりだから、腕のいい人が少人数で、阿吽の呼吸でこなすスタイルが主流。もっと大きな作品を継続的に作るという覚悟を持てば、違った発想が生まれてくるはずです」

特注品を生み出す芸術家の”工房”から脱皮して、大量生産により市場を支える産業人の”工場”へ──。従業員の採用方針にも、独自のポリシーが貫かれている。

「学生を採用する場合、何かひとつの技能においてはプロの領域に肉薄しているけれど、ほかはイマイチ。そういう人材でも採るわけですが、但し、1人で完結できないわけですから徒党を組んで仕事ができることが前提。自分の思っていること、感じていることをしっかりコミュニケーションできないと一緒には働けない。いわゆる芸術家タイプより、みんなといるのが楽しいというタイプのほうが馴染むんです」

求められる姿──集団の中で力を発揮する個。その資質には、違った意味で「引用」のセンスが不可欠だと塩田はいう。

「クリエイターが寄り集まって、まだ姿形のないものをつくろうとした時、唯一共有できるのは過去の作品の引用しかないんですよ。あの映画のあのシーンとか、あの画家のあの絵だとか…そういった共通の記憶を取り出して、合意形成を図るわけじゃないですか。そのために引き出しをたくさん用意する。どういうキーワードを身につけ、如何に速く見つけ出して、その上に自分の付加価値を乗せて成果物とするか……それがクリエイティヴィティだと思います」

引用のバリエーションは、クリエイターの能力そのもの。大量生産ラインを支える「潤滑油」というわけである。

24インチの液晶ペンタブレットを席に据え置く森山佑樹。『シドニアの騎士』でキャラクターデザインを手掛ける彼は、「原作者である弐瓶勉先生との打ち合わせが凄く楽しい」と率直に語る。

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