新聞・週刊誌「三面記事」を読み解く
【第81回】 2014年7月12日 降旗 学 [ノンフィクションライター]

ウナギの稚魚シラスが今年は豊漁も
レッドリスト掲載でもう鰻は食べられない?

 魚偏に春と書いてさわらと読む。

 当然、春の魚だと思い、鰆の煮付けが食いたい、やっぱり旬ものはいいよね、とリクエストしたら、あら、鰆は冬の魚よと家内に言い返され、何を言っているのだ、鰆は魚偏に春と書くんだぞ、春の魚に決まってるじゃないか、むかしつきあってたガールフレンドは梅雨の時期にいつも鰆の煮付けをつくってくれてさ、それが美味くて……、あ~ら、むかしのガールフレンドって、××ちゃんかしら、それとも××ちゃん? もしかして××ちゃんだったりして。

 という会話がずいぶんとむかし……、結婚間もないころにあって、以来、我が家で、鰆は冬のお魚になりました。むかしの女を知っている女房ってのは考えものだな、と思いながら調べたところ、鰆の旬は、関西が春、関東は冬なのだそうです。

 関東と関西で旬の時期が違うなんて、鰻のさばき方みたいだな――、ということで、鰻のお話です。ウナギは、何故か関西では腹開き、関東では背開きですね。

 ショックだった方も多いだろうが、先月十二日、国際自然保護連合(IUCN)が、ニホンウナギをレッドリスト(絶滅危惧1B)に指定した。過去三〇年で、生息数が五〇%以上減ったという基準を満たしてしまったからだ。

 絶滅危惧1Bというのは、1A、1B、2と三分類されたカテゴリーの中で「近い将来、野生で絶滅する危険性が高い」種を言う。1B指定は全部で六八〇七種あるそうだが、ジャイアントパンダやトキもここに含まれる。

 トキと同じだとするとものすごくピンチのようにも感じられるが、参考までに、1Aは「ごく近い将来、絶滅の危険がある」で四五五四種、2は「絶滅の危険が増大している」で一万七四二種だ。

 日本では、環境省がつくる日本版レッドリストに昨年の段階でニホンウナギを指定していたこともあり、鰻好きにすれば、来るべきものが来たといった感じだ。

 だが、レッドリストに指定されると、ゆくゆくはワシントン条約でウナギの輸入が禁止される可能性もあり、つまりは……、考えたくはないが、鰻はいまほど簡単に食べられる料理ではなくなる日も来かねない、ということだ。

 ウナギが食えなくなる――?

 いやいや、それだけは勘弁してほしいのである。名古屋に行けば、日帰り出張なら一泊に変えてでも、ひつまぶし発祥の老舗に行くし、名古屋出張がないときは上野まで食べに行く。近所にも何軒か古い鰻屋さんがあるのだけど、鰻はやっぱり上野だ。池之端で鰻を食い、本郷に抜ける、である。

 鰻の稚魚シラスウナギは、一九七〇年の段階で年間一三四トンも捕れていた。

 だが、二〇一三年のデータでは、その漁獲量は驚きの五・二トンにまで減っている。乱獲が原因なのだ。私たちがよく鰻を食べるから。世界で捕られる鰻の七割を日本人が食べているのだそうだ。そりゃ食べますよね、万葉集にだって鰻が出てくるのだから。

 現在、私たちが食べるウナギはほとんどが養殖だ。捕まえたシラスを養殖池で育てるのだが、昨年、養殖池に入ったシラスは一三トン。漁獲量が五トンちょっとだから、八トン近くが輸入物のシラスだったことになる。

 貿易統計によると、輸入元は香港なのだが、香港では鰻は捕れないらしい。

「中国や台湾で捕れたシラスが、香港経由で日本に入ってきていると考えられる」

 水産庁はこう見ている。

 中国、台湾はシラスの輸出を禁じているから、規制のない香港が経由地に選ばれたということだ。密輸なのである。中国産にはそんな鰻もあるのかも? そーいえば、イトーヨーカドーでは、売れ残りの中国産で発がん性物質のマラカイトグリーンが含まれた鰻を転売した事件がありましたね。

 すぐ健康に被害を及ぼすものではないとはいえ、やっぱり中国産食材は怖いと思う私ですが、皆さんはどう思われますか? 安心材料がないんだよね。段ボール入りの肉まんを売ったりするし。

 コンビニや外食チェーン店で安く食べられる鰻は、ヨーロッパウナギなのだそうだ。これもワシントン条約で欧州からのシラスの輸出は禁止されているが、これもモロッコやチュニジアを経由して中国に入り、中国で養殖され、香港経由で日本に入ってくる。

 昨年、北里大学海洋生命科学部の吉永龍起講師が大手スーパーや弁当店、外食チェーン等々十三社で出される鰻のDNAを調べたところ、すき家、吉野屋、イトーヨーカドーなど八社が扱う九製品の原料がヨーロッパウナギだった。今年の調査では、今度はアメリカウナギも混入していたとのことだ。

「いま出まわっているのは、成長が十分でない細いウナギばかり」

 活ウナギ問屋の関係者が言っている。

 だが、今年のシラス漁は「捕れすぎ」と言っていいほどの豊漁だったらしい。そのため、問屋は在庫処分を急ぎ、スーパーで売られている中国産の蒲焼きは一〇〇〇円前後、場合によっては去年の半値にまで値が下げられているとのことだ。いまなら安いのである。中国産だけどね。

 豊漁の今年、中国や台湾から輸入したのシラスとあわせ、養殖池への仕込み量は前年の四倍になった。ただ、この豊漁が、たまたま今年だけの幸運だったのかどうかは定かではないのだ。過去の漁獲高を見れば、来年も今年と同じような漁ができる保証などどこにもない。来年捕れなければまた値上げするのだし。

 四年前、水産総合研究センターの研究グループが、鰻を卵から育てる完全養殖に成功しているが、これを商業ベースに乗せるにはまだまだ長い時間を要するとのことだ。だから、シラスの漁獲高に頼るところも大きい。

 鰻好きの懸念は、二年後のワシントン条約に関する会議だ。

 この会議で、シラスの輸入禁止もしくは規制が決定される可能性はきわめて高い。乱獲を防ぐため、政府も、シラスの漁獲量を定めたり、養殖の規模を規制するだろうとも思う。

 国産のシラスにしか頼れなくなると、間違いなく牛丼屋さんで鰻丼は食べられなくなるだろうし、鰻は高級食材の仲間入りをする。鰻は庶民の食べ物ではなくなり、そうそう簡単に食べられる料理ではなくなるのだ。いやん。

 いま、私は月に一回か多くて二回くらいの割合で鰻屋さんの暖簾をくぐるが、おそらくはこれが三ヵ月にいっぺんとか半年にいっぺんになるのだ。いやんいやん。

 さて、今月二九日が夏の土用丑の日。あと数年で簡単には食べられなくなるかもしれない鰻です。いまのうちに……、という言い方はおかしいけれど、鰻の美味しさを堪能しておきたいものです。

 ちなみに、鰻の上に梅肉をちょっと載せて、いただいてみてください。

 これが私がお奨めする食べ方。食い合わせが悪いなんてのは嘘八百で、むしろ一緒に食べたほうが美味しいくらい。お試しあれ。

 今月最後の週末は鎌倉に出向いてシラス丼をいただき、土用丑の日はご近所の鰻屋さんで鰻重をいただく。これが理想です。月末に名古屋出張が入ればもっといい。
 

 鎌倉のシラス丼はイワシの稚魚でウナギじゃないだろう、と誰かツッコんでください。