中東のイラクが分裂の危機にある。国際社会が手をこまぬく間に、国の統治はすでに3分割の方向へ進みつつある。

 イラクをこのまま無秩序に崩壊させてはならない。国境の流動化を認めれば、その影響は一国にとどまらない。

 中東は宗教や民族、歴史が絡み合う火薬庫だ。主要国の一つであるイラクが崩れれば、中東全体の秩序が危うくなる。

 国家の枠組みは維持しつつ、どんな統治の態勢をとることが最善か。周辺諸国と国連、米国、欧州は急いで安定化の道筋を探らねばならない。

 政権を握るシーア派と、旧フセイン体制で支配層だったスンニ派の抗争は深まるばかりだ。

 「イスラム国」を名乗る武装組織と、各地の部族勢力とが結びついたスンニ派は、北西部の掌握を固めつつある。

 北東部では、もとより強い自治権をもつクルド人勢力が、数カ月後にも独立を問う住民投票に踏み切る方針を示した。

 長い独裁時代をへたイラクは本来、統一国家の強い意識をもつ国だった。それがイラク戦争と内戦で崩れ、米軍撤退後にスンニ派を冷遇したマリキ首相の失政でさらに悪化した。

 だが、首相は今なお政権維持を優先し、各派との融和をめざす気配がない。もはや現政権下での国家再生はむずかしい。

 一刻も早く各派間の対話を急ぎ、内乱をしずめる態勢を築く必要がある。米国はその仲介にもっと本腰を入れるべきだ。

 マリキ政権を支えてきたイランや、スンニ派と関係が強いサウジアラビアなどに不毛な介入は慎むよう求め、イラク再建の環境を整える必要があろう。

 将来的な統治のあり方をめぐっては、各派の高い自治を認める連邦制の導入なども視野に、知恵を絞らねばなるまい。

 中東では、近年広がった民主化運動「アラブの春」の影響を受けた多くの国で、国家の統一性が危うくなっている。

 内戦が続くシリアだけではない。カダフィ政権が倒れたリビアは民兵の武装解除が進まず、国内対立が深刻だ。イエメンも内紛やテロが続き、国内の各勢力の間で亀裂がめだつ。

 いまの中東の国境線は100年前の第1次大戦後、欧州列強の駆け引きをもとに生まれたものでしかない。ただ、混乱を収拾するには現状の国境線を出発点とせざるをえない。

 世界では、旧ユーゴスラビアなど国家が分裂する過程で幾多の殺戮(さつりく)が起き、多くの避難民が生まれた。そんな惨劇は何としても避けねばならない。