テクノのリズムに合わせて、足でうどんをこねる――そんな謎のイベント「テクノうどん」がこのほど東京・青山のライブハウスで開催された。そもそもどんなイベントなのか? 主催者がイベントに込めた狙いとは――。会場に潜入して実際にうどんをこね、不思議イベントの誕生秘話も聞いてきた。
テクノイベントといえば、夜のクラブでお酒を楽しみながら音楽に合わせて踊る様子をイメージする人が大半だろう。だが、テクノうどんの開演時間はなんと朝8時。「うどんを踏むのは絶対朝だ」という主催者のこだわりによる時間設定だという。
朝7時半に会場「青山CAY」に入ると、すでに15人ほどの来場者が開演を待っていた。受け付けで渡されたのは「うどんマニュアル」と、中身がはみ出さないよう2重のジップロックで厳重に守られた「うどん生地」だ。
会場ステージにはDJブースが設置され、「これぞクラブイベント」という構え。ただし他のイベントと明らかに違うのは、DJブース前にブルーシートを敷き詰めた「うどん踏みスペース」が設置されていることだ。さらには、こねたうどんをゆでるスペースや、うどんを食べるテーブル席まで完備されている。
朝8時を過ぎ、ついに待ちに待ったテクノサウンドが流れ始めた。最初はテーブル席で鑑賞していた人々も、1人、また1人と靴を脱ぎ、ブルーシートの上でうどんを一心不乱に踏み始める。ライブハウスの中に異様な光景が広がっていく。
テクノに合わせてひたすら踊ると、足もとでうどん生地がこね上がっていく。いい具合の硬さになったら「うどん受け付け」という名の調理スペースに持っていく。係の人から番号札が渡され、ゆで上がったら番号をコールされる仕組みだ。
ゆで上がるのを待つこと約10分。通常のクラブイベントのようにお酒を飲んだりダンスを踊ったりししながら待っていると、突然「うどん番号札48番のかた〜。うどんがゆで上がりました」とのアナウンスが。音楽とアナウンスのギャップに会場がどよめく中、自分のうどんをゲットした。
そして待ちに待った実食。……おいしい! コシが凄い!! 何より、朝に食べるうどんはおいしい。トッピングのかまぼこやだし汁もいい仕事をしている。しかし楽しく踊って踏みすぎたのか、「コシが強すぎる」という声も会場のあちこちから聞こえていた。
テクノうどんを企画したのはアートスペース「浅草橋天才算数塾」主宰のDJぷりぷりさん。そもそもなぜこうしたイベントを企画したのか、DJぷりぷりさんとイベント運営の中心を務めるあめ細工職人のアメシンさんに聞いてみた。
――なぜ「テクノうどん」を始めた?
アメシン テクノうどんはもともと、風営法のダンス規制(※)が問題になった時に「ただ踊るのではなく、うどんを踏めばいいのでは?」という発想から企画されたものなんです。ダンスミュージックに合わせてうどんを踏めば、たとえ風営法違反で摘発されそうになったとしても「いや……うどん踏んでるし?」と言えるのではないかと(笑)
音楽に合わせてダンスを楽しむクラブが、風俗営業適正化法の許可を受けていないとして警察に摘発されるケースがここ数年で続出。「客を踊らせること」を規制対象とする同法をめぐり、法改正を求める活動が各地で行われている。
DJぷりぷり 風営法のダンス規制に対して、みんなまじめに反対活動とかしてるじゃないですか。僕らはそこをあえて「うどん」で対抗することで、ベクトルは同じなんだけど“ギャグ”をもって飛び越えたいと思ったんです。
――イベントを開催してみて手ごたえは?
DJぷりぷり 今回のテクノうどんは3回目なのですが、去年開いた第1回は告知なしでなんとなく30人集まって。そこで今年6月に開いた第2回は、アイドルも呼んで本格的に集客してみたんです。すると、イベント概要を発表したとたんに「テクノうどん」という名称だけでSNS上で話題になってしまって。僕らもすごく不思議でびっくりしました。
アメシン 実際に開催してみると、「テクノ」にも「うどん」にも興味がない人が並んで参加するんです(笑)。それがすごく面白くて。これは、テクノイベントにもうどん屋さんにもできない“新たな力”が生まれている……と実感しました。
DJぷりぷり これまでにも音楽や映像に関するイベントをいくつも企画してきましたが、音楽や映像だと感想が“人それぞれ”なんです。でも食事なら「うまい」「まずい」がハッキリするし、自分で踊ってこねたうどんに愛着も湧く。食事を絡めたイベントならではの面白さがあると感じています。
今回のテクノうどんはソーシャルメディア上で話題を呼んだだけでなく、海外メディアからも取材があったとのこと。「来年に向けてまた面白いイベントを企画、進めているところです」とDJぷりぷりさんは話している。
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