【経済記者の裏耳早耳】
2カ月前のこのコーナーで取り上げたローソンの新浪剛史会長が、サントリーホールディングスの次期社長にスカウトされた。ローソンの経営を後継者に委ねた後、財界活動か、経営のプロか、どちらの道を選ぶか注目されていたが、世界的な経営者として、さらなる飛躍を目指すことになった。新浪氏のこの決断が、日本企業にプロ経営者を広めるトリガー(引き金)になるのではないかとの見方が強まっている。
「後継者を探すとき、日本企業は社外の人材に目をやることはなかった。欧米では社内も見るが、社外も見て、最適な人を選ぶ。日本にもやっとそんな時代が来たのかな」
経営の第一線からの引退を表明したオリックスの宮内義彦シニア・チェアマンは、外部からの社長の起用をこう歓迎する。
生え抜きの社員を育成し、現場での仕事を通じて経営を学ばせ、社長に起用する。そんな日本企業のシステムを壊したのは、経済のグローバル化だ。
例えば、海外展開を強化する狙いで、武田薬品工業は、英グラクソ・スミスクライン幹部のクリストフ・ウェバー氏を社長に起用した。海外市場での戦略を立案し、現場を指揮できる人材は、社内にも国内にもそう多くないからだ。
社長に外部人材を起用するのは、欧米の企業では当たり前のことだ。米企業で働いたことのある関係者は「米ではMBA(経営学修士)やロースクール出身者でないと、社長レースの入り口にも立てない。経営者は専門職」と話す。
ただ、経済界では、日本企業が経営者を育成する力を失いつつあることを危惧(きぐ)する声もある。ある中堅サラリーマンは「そもそも、日本には経営者を育成するシステム自体がない。社内の激しい出世競争に明け暮れ、社内の事情に精通した人ばかりが出世するからだ」と話す。