パレスチナ:ユダヤ少年殺害容疑者の母、無実訴え
毎日新聞 2014年07月04日 19時37分(最終更新 07月05日 00時01分)
ヨルダン川西岸パレスチナ自治区ヘブロン近郊で3人のユダヤ人少年が拉致・殺害された事件で、イスラエル側が「主犯」と指摘するパレスチナ人2人は事件後、姿を消したままだ。そのうち1人の母親は「息子は人殺しではない」と無実を訴える。エルサレムでは1日、ユダヤ人が「パレスチナ人に死を」と叫びデモ行進した。相互の憎悪と不信が拡大している。【ヘブロンで大治朋子】
「息子は(事件前日の)先月11日夜にお祈りをして出かけたきり、戻っていません」。イスラエルが主犯と名指ししたパレスチナ人2人のうちの1人、アーメル・アブアイシャ容疑者(32)の母ナビアさん(48)はそう言って涙を浮かべた。イスラエル軍が2階部分を爆破したという自宅は、大半の家具や壁が破壊されていた。
殺された少年3人は6月12日夜、へブロン近郊で行方不明になった。同30日にへブロン北部で遺体で見つかり、イスラエルはイスラム原理主義組織ハマスのメンバー少なくとも2人が少年たちを車で拉致し、車内で射殺したとみている。
アブアイシャ容疑者は、ナビアさんと製鉄業を営む夫オマールさん(55)の長男。学校には行かず、10歳で羊の世話、14歳で父の仕事の手伝いを始め、3人の弟と2人の妹の世話を焼く「責任感の強い長男」だという。
夫はパレスチナ人がイスラエルの占領に抵抗して1987年に開始した第1次インティファーダ(民衆蜂起)以降、繰り返し逮捕されてきた。次男は2005年、爆発物を投げようとしたとしてイスラエル軍に殺害された。アブアイシャ容疑者も同年11月から約7カ月間、「理由を明らかにされないまま」拘束されたという。
夫はこの時期から体調を崩し、アブアイシャ容疑者は出所後、その代わりを務めるようになった。「とにかく稼ぐしかないと言って、体が弱いのに懸命に働いていました」
今回の拉致事件では、事件の事情を知る可能性があるとして夫のほか三男(29)や四男(28)も逮捕された。家宅捜索で来たイスラエル兵の一人がこう言った。「あなたの教育が子供をテロリストにしているのではないか」。ナビアさんは反論した。「子供たちには他人を尊重するよう教えてきた。問題は家庭ではない。ここに暮らすパレスチナ人は誰もがイスラエルに家族を殺されたり、逮捕されたりしている。そういう経験がイスラエルへの反感につながるのだ。イスラエルによる占領こそ問題だ」