第2次大戦後の極東国際軍事裁判(東京裁判)で起訴され、巣鴨プリズンに収容されていた東条英機元首相らA級戦犯二十数人が1946年秋、看守の日系人米兵に贈った寄せ書きが12日までに、米西部カリフォルニア州にある米兵の娘の自宅から見つかった。
名前のほか、好きだったとみられる漢詩の一節などが記されている。昭和史に詳しい作家の半藤一利さんは「A級戦犯たちは巣鴨プリズンで、面会者や米軍関係者の求めに応じ、多くの署名を残している。詩などを記した寄せ書きもいくつかあるが、これだけの人数が書き込んだものは多くない」と話している。
新たに見つかった寄せ書きは、終戦直後に巣鴨プリズンに勤務した日系2世の米兵看守で、76年に60歳で亡くなったトミー・イシバシさんの長女ジェーンさん(64)が、カリフォルニア州オークランドの自宅に所有していた。
縦約18センチ、横約4メートルの細長い紙に毛筆で書かれ、冒頭に「昭和丙戌(21年)秋」「石橋正雄(トミー・イシバシさんの日本名)君」と記されている。
東条元首相は名前に加え「古人今人若流水」と記入した。「昔の人も今を生きるわれわれも、流れる水のようなもの」という意味で、中国の詩人、李白の詩から取ったとみられる。広田弘毅元首相は「万邦協和」。年号の「昭和」の由来で、中国の古典の歴史書にある言葉とみられる。
白鳥敏夫元駐イタリア大使は英国の文豪、シェークスピアの作品の一節らしい英文とともに、アルファベットで署名した。このほか平沼騏一郎元首相や重光葵元外相の名前もある。花押だけ記した人もいる。
イシバシさんはカリフォルニア州で生まれたが、日本で学んだこともあり、日本語ができた。ジェーンさんは「日本語を話せる米兵は少なかったので仲良くなり、寄せ書きなどを贈られたらしい」と話している。(ロサンゼルス=共同)
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