世界の活字メディアが、スマートフォン(スマホ)など情報端末への対応に拍車をかけている。機器の普及で、ニュースをスマホで読む習慣が世界的に広がるなか、読者の減少に直面する新聞業界はモバイル重視に大きく転換しはじめた。ニュースに臨場感を添える動画や記事を1本単位で安く配信する「単品売り」など、課金に抵抗の強い若者らをあの手この手で掘り起こし、各社は「脱・無料」「モバイル」で生き残りを狙う。
■時代はネット動画
「デジタル分野で稼げるようにならなければ、そのうち新聞社は平凡なものしか出せない存在に成り下がってしまう」――6月、イタリア・トリノでの世界新聞大会の会場には危機感が渦巻いていた。毎年恒例となっている報道関連業界の基調報告は、紙媒体の収益基盤が縮小しつづけるなかで、デジタルへのシフト、特にスマホを中心としたモバイル向けに課金できるかどうかが、事業継続の可否まで左右する時代に入ったことを告げた。
新聞各社がスマホ利用者を取り込む目玉とするのは動画だ。他社に先駆けて取り組んでいる米ウォール・ストリート・ジャーナル紙では、2000人の記者が撮影、編集し毎月120時間分のビデオに仕上げる。膨大な本数の映像は自社サイト以外にヤフーやAOLなど32の提携先にも配信され、今後も対象を拡大していく構えだ。イタリアやスペインで日刊紙コリエレ・デラ・セラやスポーツ紙ガゼッタ・デル・スポーツなどを発行するRCSメディアも動画コンテンツに力を入れる。同社は雑誌の売却を進め人員を削減する一方で、昨年は通常の会社全体の年間投資額に匹敵する約4000万ユ―ロをデジタル部門に集中し紙媒体中心の事業構成からの転換を急いでいる。
紙で書くことに慣れた記者が、いきなり映像で発信できるのだろうか。「世界中に動画記者育成部署があり、4~5日研修を受ければアイフォーンを使って誰でも動画をつくれるようになる」(ウォール紙ビデオ部門責任者のクリス・クラマー氏)。トップ記者が制作したオバマケア(米の医療保険制度改革)やマレーシア航空機行方不明事件の解説動画などが好評を得ているという。もっとも「一流に育つ可能性のある記者は世界に10人ほどで、まだまだ実験段階」(同氏)というのが実情で動画ビジネスは発展途上の側面もある。
コンテンツを充実させるために、各社は一般市民の力も借りようとしている。昨年末にはウォール紙の親会社であるニューズ・コーポレーションが、一般人が作成した動画を配信するアイルランドのベンチャー「ストーリーフル」を買収した。ストーリーフルは、投稿者の動画を米ABCや英BBCといった有力放送局などに売り込む「代理人」の機能も掲げており、注目を集めている。RCSメディアも3月、市民が投稿した動画を配信するベンチャーの「YouReporter」を傘下に収めた。市民参加型動画を取り込むことで、読者とメディアが交流できる双方向型のサービスをめざす。
ニューズ・コーポレーション、フェイスブック、ヤフー、ニューヨーク・タイムズ