2014-07-03
”失楽園しようよ”『サード・パーソン』
映画 | |
ポール・ハギス監督・脚本。
処女作で成功を収めた作家のマイケルだが、最新作の執筆に難航し、パリのホテルに缶詰中。別居中の妻からの電話を受けながら、愛人でありゴシップ雑誌のライターであるアンナと過ごしていたが、原稿は遅々として進まない。その頃、世界中を回るビジネスマンのスコットは、ローマで謎の美女と出会う。またニューヨークで夫と子供の親権で裁判を戦うジュリアは、ホテルで働き始めていた。三つの物語がやがて交錯する……。
先日の『ディス/コネクト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140601/1401624941)の話や演出がポール・ハギスっぽいという話だったのだが、今作では満を持して本家本元が登場と相成りました。果たして、真のポール・ハギス演出とはいかなるものなのか……? 『クラッシュ』は見てないんだけど、『告発のとき』は普通の映画だったような気がしたがなあ。
リーアム・ニーソン演ずる作家を軸に、ミラ・クニス演ずる離婚された女と、エイドリアン・ブロディのセールスマンの、三つの話が交錯する。作家が作中で小説を書いている、という設定が出てきた時点で、これは各エピソードの虚構性とメタフィクション的要素が匂わされているも同然。果たして、三つの舞台が絡み合い、地理的に無理のあるすれ違いが起きたりと、よりその虚構性を印象づける。そして、交差した各々のエピソードの背後に浮かび上がる真実とは……。
とまあ、ミステリ的な要素もあるしこういう構成は大好物で、たまには複雑な話を観て頭を悩ませるのも良かんべえ、と思って観に行ったわけである。が、致命的なまでにお話が面白くなかったなあ……。
自らの過ちで子供を失い、自責の念に駆られた男が、心を病んでいる、あるいは経済的社会的に追い詰められている女を救うことで償いを果たそうとする、という構図がまず自分に酔いすぎで完全にアウトだし、まあそんな女に都合良く惚れられ、さらに元嫁にもまだ心配されているというシチュエーション、なんだか渡辺淳一の小説のようではないか。自分に酔った底の浅い薀蓄を垂れ流し、文化人ぽいけどチンコに忠実で、ずっと年下の女とプレイを楽しむ……ってあたり、まさに『失楽園』や『愛の流刑地』の主人公のようである。何が白いバラだ、アホタレ。
オリビア・ワイルドの肉体をお楽しんでいる暇があったら、奥さんとやり直しなさいよっちゅう話で、それをせずに別の女に走る言い訳として、近親相姦やら子供がさらわれてるというネタを無理やりひねり出しているようにさえ見える。『失楽園』でも、女の方は現在の夫にSMプレイを強要されてるというエクスキューズがあったしな。そう考え出すと、子供が死んだ云々の話さえも、まあまともに考えてるのか怪しく見えてくるね。もちろん、作り手側にすれば単なるネタなのだろうが、それが作品中から透けて見えるあたり、非常に痛い。
そんなリーアム・ニーソン=渡辺淳一パートがある一方で、ミラ・クニスのお話だけは辛うじて真剣味を感じたところで、時間も守れないしうっかり子供を殺しかけたダメな女だけど、それでも母なのだというストーリーはシリアスであった。が、これ、他のパートのように、ミラ・クニスが海外ぶらついて若い男と付き合い酒を楽しみつつ、自分を許せない〜子供のために償いたい〜と考える話だったら果たしてどうだろうなあ。こちらの真剣味が増せば増すほど、男2人の話がどんどんあほらしくなってくるのである。
まあまあ、作中ではこれらはすべてフィクションであり、「読むに耐えないよ」と編集者に言われる小説だと思えば、別に腹も立たないわけである。渡辺淳一もかつては文豪だったわけだし……。思えば『愛の流刑地』の前半は馬鹿馬鹿しいエロしかなかったが、後半で女を絞め殺すという爆弾を投げつけて怪作に仕立てあげてしまった。この『サード・パーソン』でも、あのバラのくだりを始め、ホテル内のイチャイチャのくだらなさにうんざりしていたところで、後半にいきなり近親相姦ネタをぶち込んで編集者に「これはすごい……」と言わせてしまうあたり、ますます渡辺淳一のようではないか。『愛の流刑地』において、息子に不倫&殺人で呆れられていたのに、法廷で愛の深さを語ったら感動されて、名言「父さん、かっこ良かったよ」をいただく、という展開を彷彿とさせたね。いやあ、それを作中人物に言わせたらおしまいだろ! だいたい近親相姦ネタで急速に小説が面白くなるというのも理解に苦しむな。
面白いものが書けないのも、新しい彼女との関係に悩むのも、子供を死なせた罪から許されないのも、それぞれ大事な話であるがあくまで別個の問題であるはずなのに、いっしょくたにした挙句に小説書くのが優先になっちゃう展開も、いかにも物書きらしいエゴに満ちたお話であるな、とも思いましたね。
演出力は買うが、このお話のどうしようもなさは強烈で、逆の意味で打ちのめされてしまった。長いし……。とりあえず渡辺淳一先生の正統な後継者はポール・ハギスなのではないか、という説をぶち上げて、この項を終わります。
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