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Danas je lep dan.

2014-07-11 おまけが本編

[][]グルジアのことは「ジョージア」ではなく「サカルトヴェロ」と呼ぼう

 カフカース山脈に位置する小国グルジアが自国呼称の変更を日本に対して求めていることは以前より知られていたが,どうやら政府は本格的に名称変更に乗り出すらしい。

 (……)外務省も呼称を変えるべく次期国会に法案を準備している。同国から「グルジアはロシア語で、ジョージアと呼んでほしい」と求められているからだ。

(……)

 同国は6月末、ウクライナモルドバと共に欧州連合(EU)との連合協定に署名した。かつてソ連の一部だった同国は、これによって欧米との絆を確固としたものにした。呼称変更を日本政府に求めるのも、ソ連離れとも関係しているのだろう。

 外務省が国の呼称を変えた例はベトナム(以前はヴィエトナム)とコートジボワール(以前は象牙海岸)がある。「先方の要望もあり国会は通るでしょう」と外務省。そうなるとマスコミも「ジョージア」と呼び、表記することになる。(客員編集委員

金言:「ジョージア」に変わる?=西川恵 - 毎日新聞

 しかし,「ヴィエトナム」を「ベトナム」に変えたのは,現地語の日本語表記を「可能な限り原音に近づける」か「どうせ原音の再現は無理なので簡潔な表記を採用する」かという論争の結果であり,「象牙海岸」が「コートジボワール」に変わったのは,国名を直訳するのではなく元の発音のまま表記してほしいという先方の要請に従った結果である。こういった話ならば,よく理解できることだ。

そのうえ、「ヴィエトナム」でも実は無意味なのです。ベトナム語のA音には長く伸ばす母音と短い母音の2種類あり、これを区別しなければ通じません。Namのaは長い方です。またVietのtは口の形だけで発音しませんから、「ヴィエッナーム」という感じになります。しかしそれでもベトナム語の声調を表すことはできませんから、やっぱり通じないでしょう。

そうです、日本語の発音はとても単純ですから、カタカナでいくらがんばっても、あのベトナム語の複雑な発音を正確に表すことはできないのです。それなら、日本人には発音できない人がおおぜいいるV音にこだわって、だれにも通じない「ヴェトナム」の表記をするより、易しい「ベトナム」でいいんじゃないでしょうか。ほかにも地理や歴史の教科書には、生かじりの現地語主義で妙ちくりんなカタカナをならべ、生徒を勉強嫌いにしている例が多すぎます。「木を見て森を見ず」。日本人の悪いクセです。

1.ベトナムとヴェトナム、どちらのカタカナが正解? - 日本ベトナム友好協会大阪府連合会

 (……)また、コートジボワール(Côte d'Ivoire、フランス語で「象牙海岸」の意)は英語では Ivory Coast 、ドイツ語では Elfenbeinküste 、スペイン語では Costa de Marfil というように各国語に訳されて呼ばれていたが、コートジボワール政府は各国に対して他言語に自国名が翻訳されることがないように要請している。

外名 - Wikipedia

(どうでもいいけどドイツ語の「エルフェンバインキュステ」ってかっこよすぎやろ……さすがドイツ語)

 ところが現在グルジア政府が求めているのは,「グルジア」というロシア語由来の外名を,「ジョージア」という英語由来の外名に切り替えろという要求で,これははっきり言ってわけがわからない。「グルジア」は既に日本語の慣用として定着しているし,現地語の名称である「サカルトヴェロ」を採用すべきだという主張ならば道理があるが,ロシア語読みから英語読みに変えろなどというのは,日本語の慣用にも現地語優先という原則にも沿っていない,はっきり言って異様な主張である。どれだけ英語帝国主義を内面化しているんだ。

 とはいえロシア語読みで呼ばれるのが嫌だということであれば,少なくともそれは尊重した方がいいかもしれない。だが,わざわざアメリカジョージア州と区別のつかなくなるような英語名を採用する必要はあるまい。グルジア政府の反露・親米政策に,わたしたちがつきあわなければならない義理など毛頭ないのだから。ここは,グルジア語で「グルジア」を意味する「サカルトヴェロ」を採用すべきだとわたしは思う。実際に,その呼称を採用している漫画作品などもあることだし。

 参照:ネリー・ヴィルサラーゼさんと祖国サカルトヴェロについて|マンガソムリエ兎来栄寿のブログ 先刻の箚記(さっきのさっき)

 ということで,わたしは向後「グルジア」と呼んでいた国のことを「サカルトヴェロ」と呼称することにします。賛同してくださる皆さんは,どんどん「サカルトヴェロ」を使ってください。

 ところで,上で挙げた毎日新聞の記事には,よく事情を知らないで書いたのだろうが,間違いがいくつも見受けられる。

 ところでグルジアと呼ぶのは日本のほかはロシアなど旧ソ連の国のみ。大部分の国はジョージアである。(……)

金言:「ジョージア」に変わる?=西川恵 - 毎日新聞

 これはダウトだろう。ハンガリー語では「グルージア(Grúzia)」,セルビア語やクロアチア語スロヴェニア語,マケドニア語,それにブルガリア語では「グルジヤ(Gruzija)」,ポーランド語では「グルジャ(Gruzja)」。どれも発音としては「グルジア」に近いが,これらの国はもちろん旧ソ連の国ではない。さらに,チェコ語では「グルジエ(Gruzie)」,スロヴァキア語では「グルジーンスコ(Gruzínsko)」,モンゴル語では「グールジュ(Гүрж)」,トルコ語では「ギュルジスタン(Gürcistan)」と呼ぶ。どれも語源的には「グルジア」に近いだろう。ヴェトナム語ではGruzia,クルド語ではGurcistan,中国語では格鲁吉亚と綴るらしいが,これらも「グルジア」系統だろう。わたしはハングルを読めないが,中国語版Wikipediaによると,韓国語の그루지야も「グルジア」に由来するらしい(「俄羅斯稱格魯吉亞為『Грузия』(Gruziya),……據俄語音譯的例子有:日本譯『グルジア』(Gurujia),韩国譯『그루지야』(Geurujiya)……等。以上例子的拉丁化譯名十分相近」格鲁吉亚 - 维基百科,自由的百科全书)。よって,ロシア語由来の呼称を用いることが特殊であるとは言えない。こんなのは5分程度Wikipedia各国語版を見れば誰にでもわかることだ。

 さらに,英語Georgiaと共通する語源に基づいた綴りを採用している国であっても,発音が「ジョージア」と同一であるとは限らない。だいたい英語は綴りと発音が乖離する言語として有名である。フィンランド語イタリア語のGeorgiaは普通に読めば「ゲオルギア」だろうし,ドイツ語のGeorgienなんてどう考えても「ジョージア」ではないだろう。ギリシア語のΓεωργίαも「ゲオルギア」である(ただし,黒海沿岸地域に居住していたポントス・ギリシア人の言語であるポントス語ではΓρουζίαと綴るらしい。Γρουζία - Βικιπαίδεια。これは「グルジア」系統である。何よりもポントス語版Wikipediaが存在していることに驚いた……)。

 あとは,「Georgia」に基づくのだろうが,大幅にローカライズされて原型を留めていない呼称も散見される。ポリネシア系言語には音素が少なく,たとえばハワイ語には子音はp, k, m, n, w, l, h,ʻの8つしかない(ハワイ語 - Wikipedia)。よってハワイ語ではKeokiaと綴られる。同じくポリネシア系のマオリ語ではHōria。ケルト系のマン島語ではYn Çhorsheyで,もはやここまでくるとサカルトヴェロのことだと推測することじたいがケルト系言語を知っていなければ不可能に近い。もちろんわたしにはわからない。それらの言語は少数言語だって? では,セネガル国民の8割が解するというウォロフ語はどうだろうか。ウォロフ語ではJeoorjiである。ちなみにマオリ語は,英語・ニュージーランド手話と並んでニュージーランドの公用語のひとつなので,「ニュージーランドではHōriaと呼ぶ」と書いても間違いではない。ついでに言うと,ハワイ語もハワイ州の公用語になっている。

 意外だったのがエスペラントで,Kartvelioと綴る。これはもちろん「サカルトヴェロ」に由来する言葉だ(「サ」は接頭辞である)。外名ではなく現地名尊重という点では一番マトモであろう。

 まあ西川恵氏が中国韓国ポーランドハンガリートルコモンゴルもヴェトナムも「大部分の国」には含まれないと主張するのであれば,極めて斬新な日本語の用法だなと思うわけである。いったいどこを見てものを言っているんだと言いたいが。

 最近、日本記者クラブで会見したレバン・ツィンツァゼ駐日大使は、国の呼称について「ギリシャ人が『多くの農民がいる』との意味でこの地域をギリシャ語でゲオルギアと呼んだというのが有力説で、当時から農業に恵まれた土地でした」と述べた。ゲオルギアを英語読みしてジョージア。ちなみにこの国の人は自国をサガトフェロと呼ぶ。

金言:「ジョージア」に変わる?=西川恵 - 毎日新聞

 「サガトフェロ」ではなく「サカルトヴェロ(საქართველო)」である。რの文字を読み落としてる上にვの読み方を間違えてるんですがそれは。ქは,Wikipedia「グルジア語」を参照する限りでは,日本語のカ行よりも強く発音する音のようなので(ドイツ語のchやロシア語のхを発音するのと似た感じで音を出せばいいのだろうか),ガ行に聞こえるのもやむなしとは言えるかもしれないが,しかし何度も言うようにこんなのは検索すればすぐ出てくることがらであってだな……。

 そして,間違いではないが,駐日大使の話が気になったので調べてみた。日本語では聖ゲオルギウスが語源だと説明されることが多いようなので。

日本語名として使われる「グルジア」はロシア語名Грузия(グルーズィヤ)にもとづいており、これは英語名のGeorgiaと同じく、キリスト教国であるグルジアの守護聖人、聖ゲオルギウスの名に由来すると推定されている。

グルジア - Wikipedia

 だが農民説も近世くらいに提唱されたことがあって,諸説あるということらしい。

The full, official name of the country is "Georgia", as specified in the Georgian constitution.[8] "Georgia" is an exonym, used in the West since the medieval period. It is presumably derived from the Persian designation of the Georgians, gurğ, ğurğ, borrowed around the time of the First Crusade, ultimately derived from the Middle Persian varkâna, meaning "land of wolves". The name was etymologized as referring to St. George, explicitly so by the end of the 12th century by Jacques de Vitry, due to the Georgians' special reverence for that saint (see Tetri Giorgi).[9] Early modern authors such as Jean Chardin tried to link the name to the literal meaning of Greek γεωργός ("tiller of the earth; agriculturalist").

Georgia %28country%29 - Wikipedia, the free encyclopedia

西歐、北歐、北美、南美、大洋洲國家採用的譯名「Georgia」有3種語源說法:

  • 使用希臘語和拉丁語的词根「農」。希臘文「γεωργος」(Georgos)解作「農夫」,拉丁文「Georgicus」解作「農業的」[3]。
  • 羅馬帝國戰士聖喬治(St. George)的名字。
  • 波斯帝國(公元前536−公元638年)稱格魯吉亞為「Gurjhān/Gurzhan/Gurjan」[4]。
格鲁吉亚 - 维基百科,自由的百科全书

 ペルシア語源説もあるのか……。「グルジア」,単なる紛争の種になる外名と思わせておいて,実はさりげなく奥深い名称である。

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