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岩手県のほぼ真ん中にある早池峰山(はやちねさん)の麓に「タイマグラ」と呼ばれる小さな開拓地がある。「タイマグラ」とは「森の奥に続く道」という意味のアイヌ語。戦後10軒あまりの農家が入植したが、60年代にはほとんどの家が山を去り、向田久米蔵・マサヨの二人だけとなった。それから20年後の1988年、タイマグラにようやく電気がひかれた。
自分のことを「タイマグラ婆」と言うばあちゃんは、満悦の笑顔で「極楽だあ…」と笑いながらお茶を飲んでる。ばあちゃんの暮らしには便利な「モノ」はなくても、さまざまな生命たちと一緒に生きているという安心と喜びで満ちていた。自分が育てた大豆を使っての豆腐作り、「お農神さま」への信仰、春一番の味噌作り。
身体を動かして働く喜び、白然に抱かれる喜び、季節を感じる喜び。ばあちゃんが守ってきたのは「人として変わってはいけないもの」であったように思われる。
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