乱用がなくならない。先月下旬、東京・池袋で脱法ハーブを吸った男の車が女性の命を奪った。危険性の啓発はもちろん、他人まで傷つける“毒物”を社会から断ち切る取り締まりも法整備も急務だ。
これまでも書いてきたが、何度でも書こう。脱法ドラッグによる事故や事件が後を絶たぬからだ。
その薬物には植物片(ハーブ)に化学物質を染み込ませた「ハーブ」や液体にした「リキッド」などがある。聞こえはソフトでも、幻覚や錯乱などの症状を起こす。本人が死亡することもあり、車の運転では他人を犠牲にすることすらある。
麻薬や覚せい剤に劣らぬ強い常習性、依存性を持つ商品もあり、乱用者自身が身も心も病み、家族や周りの人まで苦しませる。
豊島区西池袋の事故では、運転の男(37)は「脱法ハーブを吸い、途中から記憶がない」と供述。死亡した中国籍の女性(30)も、重軽傷の七人の男女も、偶然その場に居合わせただけで、何の落ち度もない人たちだった。
先週末、池袋の事故現場で脱法ドラッグ一掃を願う区民集会が開かれた。だが、その夜、東京都北区の国道で、またも脱法ハーブが原因とみられる事故が起き、二人が巻き添えになり負傷した。
厚生労働省の研究班である国立精神・神経医療研究センター(東京)が昨秋、脱法ドラッグについて初めて調べた全国調査がある。
それによれば、脱法ドラッグの経験者は約四十万人に上ると推計された。しかも、平均年齢は三三・八歳。ほかの違法薬物経験者と比べて最も低く、若い世代の乱用の広がりが見て取れる。
厚労省は薬事法での規制を進めてきた。成分が似た薬物をまとめて規制する「包括指定」を昨春、導入。違法と定めた「指定薬物」は一挙に増え、千三百七十種を超えた。製造や販売だけでなく、今年四月の法改正では使用・所持・購入なども禁止した。
昨年は脱法ドラッグ絡みで百七十六人を摘発(警察庁まとめ)。四年前の十六倍に上り、うち四十人は交通事故関連だった。
だが、こう規制を強めても新種が次々作られ事故も相次ぐ。法をあざ笑うような“いたちごっこ”が続いている。
若者が安易に手を出さぬよう、関係機関が連携してしっかり啓発するべきだ。そのうえで、この害毒ともいえる薬物を社会から締め出すためには、さらなる法の整備と強化が急がれる。
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