阿部治樹 長崎緑子
2014年7月11日23時15分
認知症のお年寄りが突然いなくなり、そのまま消息がつかめなくなる――。高齢化が進む日本は今、深刻な問題に直面している。認知症の人たちと、どう向き合っていけばいいのか。徘徊(はいかい)する人、捜す人、見守る地域。岡山であった訓練に記者も加わり、さまざまな目線で考えてみた。
■61歳シニア記者、徘徊役に
昨年5月に定年を迎えた61歳。「シニア記者」として岡山県東部の備前市を中心に仕事をしている。取材エリアには高齢者が多い過疎地もあり、認知症は自分も「予備軍」といえる。身につまされる問題と考え、高齢化率が3割を超える和気町(わけちょう)が4年前に始めた「徘徊捜索訓練」で、徘徊役を引き受けることにした。
1日午前9時半。ジーンズにポロシャツ姿で町内をうろつき始めた。どこでも見かける装いにしたのは、町の担当者に「認知症の人が奇妙な格好をしているとは限りません」と言われたからだ。一方で、少しは周囲の目を引きつけてみようと考え、日中なのに夜光のたすきをかけた。
徘徊中はよたよたと歩くほうがいいと思ったが、町の担当者は「すたすたと歩いて」。認知症の人は、迷っていながらも行き先に確信を持ち、脇目もふらず歩く人が多いからだという。「なるほど」と納得した。
田んぼの中に家が点在する地域へ。70歳前後の女性2人から「こんにちは。どこに行くの」と声をかけられた。町内には「認知症の男性がいなくなった」という訓練情報が流れていて、2人は私をその男性と思っているようだ。
「病院へ行くんじゃ」。私の返事は、訓練シナリオに沿って言い張るこのセリフだけ。2人は「あら、そう」と言うが、言葉が続かない。もっと突っ込んでくれよ、と思いつつ、立ち去った。徘徊している人に声をかける難しさ。徘徊する側になって初めて感じた。
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