ここから本文です
[PR] 

避難勧告、土石流発生10分後 被害再び 長野・南木曽

朝日新聞デジタル 7月11日(金)2時22分配信

 「白い雨が降ると蛇(じゃ)抜けが起こる」。長野県南木曽(なぎそ)町では、たびたび起きる土石流を「蛇抜け」と呼び、白く視界が遮られるほどの雨に注意を促してきた。だが今回、町の避難勧告が出されたのは土石流発生の約10分後だった。4人が流され、中学1年の榑沼海斗(くれぬまかいと)さん(12)が亡くなった土石流被害。台風8号が近づくなか、住民らは2度目の夜を避難所で迎えた。

【写真】南木曽町の地図


■議場の避難所、不安な一夜

 南木曽町が役場や町体育館、集会所など5カ所に設けた避難所には計約500人が身を寄せ、不安な夜を過ごした。弁当が配られ、保健師らがお年寄りの血圧を測るなど体調管理にあたった。

 役場近くに住む小倉勝二さん(90)は町から避難を促され、妻(86)と2人で役場2階の議場へ。自宅は被害を免れたが停電になった。「今年は雨も少なく、穏やかな梅雨だと思っていたのに。不安です」。半世紀前にも土石流を経験しているという妻は「今回の木曽川の濁流は、過去と比較にならないくらいすごくて怖かった」と話した。

 夫婦で避難してきたホテルのパート従業員深谷富之さん(66)は9日夜、近所の同級生一家と集会所に身を寄せた。いったん自宅に戻ったが、10日夜は役場に避難した。「雨で山が緩み、少しの雨でも土砂崩れが起きるかもしれない」と不安を口にした。

 約40年前の土石流では当時の自宅が浸水被害に遭っていったん町を出ることも考えたが、結局とどまった。「生まれ育って、知り合いも多い土地はなかなか離れられない」と話した。(松本英仁)


■専門家「一気に決壊した可能性」

 南木曽町によると、今回の土石流は梨子沢(なしざわ)を中心に縦約250メートル、横約150メートルの範囲を覆い、住宅5棟が全壊し、9棟が半壊や一部損壊した。

 沢は上流で二つの支流に分かれる。土石流は支流ごとに発生しており、合流して木曽川まで約1キロを下った。この間は標高差が約175メートル。一気に流れ、大きく曲がった部分で沢からあふれたという。

 町は面積の9割以上が森林で、過去もたびたび土石流に襲われてきた。地元では「蛇抜け」と呼ばれ、教訓を伝える石碑がある。6人が犠牲になった1969年の土石流の後、梨子沢には砂防ダムが三つ整備されたが、10日の国土交通省の調査ではうち二つは満杯になっていたという。

 静岡大防災総合センターの牛山素行教授は「南木曽町は山の谷筋に位置し、土石流の起こりやすい場所。土砂災害の繰り返しでできた地形だ」。宮崎敏孝・元信州大特任教授(砂防学)は「梨子沢の上流は花崗岩(かこうがん)帯で土壌が浅い。多量の雨で樹木が根こそぎ流されて途中で流れをせき止め、一気に決壊した可能性がある」と話す。

 土石流は9日午後5時40分ごろに発生。長野地方気象台が大雨注意報を警報に切り替えたのは5分後で、町が一帯の673世帯に避難勧告を出したのはさらに5分後だった。気象台と長野県が町に土砂災害警戒情報を出したのは午後6時15分だった。

 町では午後3時の段階では強い雨は降っていなかった。同3時40分ごろに強まり、同4時40分からの1時間で97ミリの猛烈な雨に。宮川正光町長は「雨の降り方が急すぎて、あれが精いっぱいだった」と話した。

 気象庁予報課は「急発達する雲の発生予測は極めて難しい。警報を待たず早めに備えてほしい」と言う。

 国交省によると、土石流やがけ崩れなどの恐れがある危険箇所は全国で約52万5千カ所。11日に台風が接近する東北では約4万7千カ所、関東7都県は約4万4千カ所ある。同省は土砂災害への注意を呼びかけている。

朝日新聞社

最終更新:7月11日(金)2時22分

朝日新聞デジタル

 

PR

Yahoo!ニュースタブレット版公式アプリ

注目の情報