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原発建設計画270基超 日本を凌駕する中国の原子力に依存する日

Wedge 7月8日(火)12時20分配信

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原発建設計画270基超 日本を凌駕する中国の原子力に依存する日

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原発建設計画270基超 日本を凌駕する中国の原子力に依存する日
石島湾原発のゲート。「華能山東石島湾原子力発電所」と書かれている
海外メディア初 建設中の最新鋭原発取材

 山東半島の東端に位置する山東省栄成市。漁業の町らしく黄海へ向かう片側2車線の道路の歩道側1車線には、アスファルトを覆い尽くすように海藻が数百メートルにわたって干してある。「これは対岸の韓国に送って化粧品にするのよ」この土地の住民だというおばさんが教えてくれた。近くの高台に目をやると、のどかな土地に似つかず、武装警察が目を光らせている。

 ここには世界の原子力関係者が注目する、中国原子力躍進の象徴がある。電力会社である中国華能集団公司(華能集団)のグループ企業が建設を進める石島湾原発である。

 原発というと水を冷却材として用いる軽水炉が知られているが、山東省に建設中の原発は、高温ガス炉と呼ばれるタイプのものである。仮に電源供給が止まったとしても、自然に止まって冷え、炉心溶融を起こさないという安全性の高い原発である。アメリカ、韓国なども研究開発を進めているが、もっとも研究が進んでいるのは実は日本で、茨城県大洗町に日本原子力研究開発機構の有する高温工学試験研究炉がある(高温ガス炉の詳細は本誌参照)。

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原発建設計画270基超 日本を凌駕する中国の原子力に依存する日
山東半島の東端にある石島湾原発。朝鮮半島との距離も近い。各原子炉建屋の位置は、取材時の情報を基に作成した大凡のもの(Google map)

 山東省で建設中の原発は、商用炉手前の実証炉1基(2モジュール、計約20万kW)で、これが完成した暁には「高温ガス炉の分野で、中国が日本を上回る」(中国事情に詳しいテピア総合研究所の窪田秀雄氏)という状況になる。完成は17年を予定している。

 胡錦濤前国家主席も訪れたこの施設に、海外メディアとして初めて取材をした。安定地盤を求めて、地下18.4メートルまで掘り下げたところに、5基のクレーンがそびえ立ち、600人程の作業員が建設を進めていた。

 「高温ガス炉の実用化を目指している。応用の部分で優れている日本とは連携を深めたいと思っている」と胡守印副総経理(副社長)は話す。中国は核燃料サイクルのカギとなる高速炉の開発も行っているが、「中国では高速炉と高温ガス炉のどちらを進めていくべきか論争が起きている。福島第一原発の事故があったこともあり、安全性の高い高温ガス炉に注目が集まっている。国内だけでなく、シンガポール、スイス、中東諸国も我が社の高温ガス炉技術に関心を寄せている」と続けた。

 石島湾原発には、高温ガス炉20基が建設されるという話を聞いていたが、現地を訪れると、不思議なものを目にした。

 それは同原発の将来模型であるが、高温ガス炉が建設されるべき場所に米ウエスチングハウスの最新型加圧水型軽水炉AP1000が4基、AP1000の技術を取り込み国産化したCAP1400が2基設置されていた。

 これについて質問したところ、「政策転換による計画変更」、「軽水炉向きの立地であることが分かった」等の答えが返ってきた。真相は定かではないが、高温ガス炉の開発に名乗りをあげることで、原発事業者の認可を得ようと考えたのではないか。「軽水炉建設に必要な土地の確保と手続きは完了した。来年度から工事に取り掛かりたい」。

 SMR(モジュール方式の小型炉)の開発も進んでいる。小型の原子炉は原子力潜水艦などに使われることから軍事と直結しており、アメリカや中国の開発が進んでいる。「アメリカが我々の技術開発を参考にしているなど、我が社が世界でもっとも進んでいる」とSMRの研究開発を担う中国核工業集団公司(中核集団)傘下の中核新能源有限公司の陳華副総経理は説明する。「SMRは今後輸出戦略商品になりうる」(前出の窪田氏。詳細は本誌コラム参照)という見方もあるが、陳氏によれば、カナダや中東諸国などが大変な興味を示しているという。

 冒頭の“上から目線”の言葉を発したエンジニアに限らず、中国で会った原子力関係者はいずれも自信に満ち溢れていたのが印象的であった。

文・Wedge中国原子力取材班 (大江紀洋、伊藤 悟)

Wedge7月号第2特集「反原発ムードの日本が躍進する中国の原子力に依存する日」では、下記の記事も読むことができます。
・中国・最新鋭原発・建設現場 潜入ルポ(本記事)
・輸出にも本腰入れ始めた中国
・福島第一第二原発で働く東電社員の本音
・疲弊する日本の原子力エンジニア
・「超安全炉」への投資もやめるのか

Wedge編集部

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最終更新:7月8日(火)12時20分

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