IDEAS + INNOVATIONS

WIRED VOL.12

WIRED VOL.12

WIRED VOL 12
 
NEWS

日本のクリエイティヴは「製造業」たりえるか?:『シドニアの騎士』にみるCGスタジオの起死回生

 
 
このエントリーをはてなブックマークに追加

TEXT & PHOTOGRAPHS BY ASSAWSSIN

キャラクター版権ビジネスとして成功を収めた『イワトビペンギン ロッキーXホッパー』だが、テレビアニメ化は叶わなかった/『イワトビペンギン ロッキーXホッパー』©POLYGON PICTURES

ゼロ年代初頭の映像業界といえばCGは間違いなく台風の目。ところが、CGアニメだけで尺の長い作品を造る企画はなかなか日の目を見ない。ポリゴン・ピクチュアズはオリジナル作品で雇用を支えられず、請負仕事による長期戦を強いられた。

「本当に仕事がなかったんで、なんでもかんでもやるしかなくて……。うちはキャラクターアニメーションが得意なのに、実写ヒーローもののVFX(画像合成やエフェクト処理)とかも引き受けたり。だけど経験が少ないから手際が悪い。その癖、単価の高い仕事だけ回してくれって頼んだりするから、自然に声がかからなくなる(笑)」

映像業界で比較的単価が高い仕事といえば、CMと相場は決まっている。だが塩田らは広告業界にも希望を見出せなかった。15秒程度の短い映像制作では、自社のワークフローが活かせない。しかも短い尺を得意とする、少数精鋭のCGクリエイター集団が台頭し始めた。ソフトウェアとパソコンの低価格化が追い風となり、メディアはこぞって「一人プロダクションの時代が到来した」と騒いだ。

「うちには当時80名ぐらいいたんですけど、そんなに人数抱えてどうすんのって、よく言われましたよ。いらなくなるんじゃないですかって。でも結局、天才って次から次へと現れるわけじゃないし、少人数だと映像の尺が長くできないから、大きな産業には発展しないわけですよ。より継続的にプロダクトが供給されなければ、マーケットにはならない。マーケットができなければ雇用なんて守れない」

日本特有の業界事情もある。01年に公開された劇場用フルCGアニメ映画『ファイナルファンタジー』の商業的な失敗が向かい風となり、「アニメといえば手描き、CG憎し」といった風潮が深く根を下ろしていた。フルCGアニメの企画に対する投機筋の反応は芳しくない。そんな流れから、塩田の目は必然的に海外へと向けられていく。特に北米ではCGアニメの台頭が著しく、映画やテレビといった長尺物の市場も盛況といえた。

「ポリゴン・ピクチュアズの差別化要素って、高度なワークフローとそれを支えるパイプライン(データの流れを制御するシステムインフラ)なんです。でも日本には大規模ラインを必要とする仕事がない。だったらアメリカへ行って、仕事をつくるしかない」

だが北米市場に売り込みをかけるということは、ハリウッドの名だたるCGスタジオと比較されるということだ。海を越えて無名のスタジオが信頼を勝ち取るため、塩田らは泥臭い闘いを強いられた。まずは「無償」で数々のテストを請負う。いわゆるお試し。それをしぶとく繰り返す。一方、国内では資金繰りに奔走。投資家たちに頭を下げる日々が続く。危機的状況のまま、気がつけば5年が経っていた。

『くまのプーさん』が跳ねて『トランスフォーマー』に変身した

北米市場で地道な努力を続ける塩田は、テレビアニメが突破口になると予見していた。

「さすがに映画は難しかろうと。ただ、テレビなら入りこむ余地がある。本数が多くて物量が半端ない上に、予算も厳しい。ピクサーみたいなハイエンドのスタジオはコストが見合わないので手を出しづらい。対抗馬が少ないんですわ。だからディズニーやカートゥーンネットワーク、ニコロデオン等にコネクションをつくり始めた。小さい仕事をこなすうちに評価も高くなって、5年後にようやく本格的なテレビシリーズが受注できた」

あのディズニーから依頼を受けた出世作『プーさんといっしょ』の成功により、ポリゴン・ピクチュアズはコスト・納期・品質すべての面において、世界市場の最強プレーヤーから圧倒的な信頼を勝ち取る。そのプーさんが見事に「跳ね」て、次の作品に繋がった。

「アメリカの映像業界って人材が流動的なんです。『プーさんといっしょ』で一緒に仕事をした監督がディズニーをやめて、ハズブロ・スタジオ(大手玩具メーカー・ハズブロの系列会社で、トランスフォーマーのアニメシリーズをてがける)に移籍した。そのおかげで『トランスフォーマー プライム』が実現する。一方でディズニーからは『トロン:ライジング』の依頼があり……という、いい流れが生まれた」

大型受注によりラインがフル稼働する中、従業員も増やし、マレーシアのスタジオと合弁会社を設立するなど量産体制をさらに強化した。こうして力をつけたポリゴン・ピクチュアズの、日本凱旋公演が『シドニアの騎士』というわけである。ターゲットを見据えた上での、5年に及ぶブレない営業努力。一点突破で成し遂げた起死回生。並大抵の事ではありませんね——そう感心してみせると、塩田は苦笑する。

「ブレようがなかった、っていうのもありますけど(笑)」

日本の業界では希少な「量産型クリエイティヴ集団」が海を越えた。その雄々しい後ろ姿は、われわれにさまざまなヒントを与えてくれる。

人気キャラクター「くまのプーさん」をCGアニメ化したテレビ作品『プーさんといっしょ』。1本あたり22分、合計68本の大型受注だった。/『プーさんといっしょ』© Disney

『トランスフォーマー プライム』はエミー賞のアニメ部門で最優秀賞を受賞。続く『トロン:ライジング』『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』も数々の賞に輝いた。/『トランスフォーマー プライム』© 2014 Hub Television Networks, LLC. All Rights Reserved.

野心とビジネスマインドをもったクリエイターよ、集え!
クリエイターの登竜門、CREATIVE HACK AWARD2014、エントリー開始しました。7月24日(木)には、デジタルハリウッド大学にてオープンセミナーを開催。今年のテーマ「コネクト “つながり”を発見し、改変せよ」をどう捉えていくべきかを、審査員たちが解題します。詳細はhttp://hack.wired.jp/まで。
 
 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
SHARE A COMMENT

コメントをシェアしよう

 
WIRED Vol.12 Gallery Interviewbanner

BACK TO TOP