奥深すぎるミャンマー伝統音楽の世界『ビルマ古典歌謡の旋律を求めて』

posted by Book News 編集:ナガタ / Category: 既刊再読 / Tags: 音楽, 歴史,

今回は、ビルマ古典歌謡の旋律を求めて 書承と口承から創作へ(ブックレット〈アジアを学ぼう〉 6) (ブックレット アジアを学ぼう)をご紹介します。

最近、突然ミャンマーの音楽を聞き始めまして。その関係で手にとったのが本書。現在ミャンマーと名乗っている国はかつてビルマという国であり、本書はその伝統音楽を、現地で学んだ経験を活かして分析紹介している一冊です。

なお、電子書籍版も出ており途中まで試し読みができるので、興味をもった方はこちらからもどうぞ
https://yondemill.jp/ebooks/128

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ミャンマーは、インドシナ半島西部にあり、中国、ラオス、タイ、バングラデシュ、インドと国境を接している国です。東側に中国とタイ、西側にインドという強国が位置しており、その影響下に歴史を紡いできました。






ビルマ/ミャンマーの音楽といっても色々と種類があるようです。日本の音楽と言っても、演歌やJ-pop、雅楽や津軽三味線など色々あるのと同じような感じです。なお、僕がミャンマーの音楽に興味をもったのは上掲の動画のように現代のポップスのようでありながら、伝統音楽っぽい雰囲気を残している楽曲が面白いと思ったからでした。ミャンマーもまた、他の多くのアジア諸国と同様、19世紀から20世紀にかけて、ヨーロッパの植民地支配からの独立と民族運動を経験しており、「ビルマ」や「ミャンマー」という国の呼称だけとっても、民族や歴史に対する強い意識が働いています。本書を読む前に予備知識的に調べた範囲では、ミャンマーでも多数派のポップスは日本でいうJ-popのように、もっぱら西洋のポップスと同じような響きを持っているそうです。ただし、例えばやはり日本のたとえになりますが、「演歌」という1960年代から1970年代に「作られた」ジャンルがあったように、ミャンマーのポップシーンでも自国の文化を見つめ直し「復古」あるいはアップデートしようとする動きがあったようです。それがおそらく、上記のような日本人が聞いてもおそらくあまり違和感のない歌謡曲風の部分と、あきらかに民族音楽みたいな部分とを併せ持つ楽曲を生み出す背景にあったのではないかと思います。

なお、日本における1960年代から1970年代にかけての「演歌」の創造についてはこちらをご覧ください
http://www.n11books.com/archives/38931400.html

さて、ミャンマーの伝統音楽ですが今回取り上げる『ビルマ古典歌謡の旋律を求めて』では、主に「大歌謡(タチンジー thachin gyi)」と言われる音楽を分析しています。ミャンマーの伝統芸能には、演劇・舞踊・糸あやつり人形劇などがありますが、そのすべてに伴奏音楽があり、本書では「音楽はそれらの基盤になっている」と書かれています。「大歌謡」は、ミャンマーでは音楽の中心は器楽ではなく歌謡であり、その古典をまとめたものが「大歌謡」と呼ばれているのです。

「大歌謡」には、いくつかの歌集があり、そこには歌詞となる韻文と、「演奏法を伝える言葉のみ」「これは歌詞としては意味を持たず、音楽や演奏パターンを伝えることば」によるある種の楽譜が収められています。これらの歌集が編纂されたのは19世紀ごろでした。近代の到来を前に王朝が崩壊した19世紀末から20世紀初頭にかけて、当時、映画などの普及とともに新興の「流行歌謡」が台頭してきており、これに対して「正しい歌」を保存しようと愛国主義者や近代政府を中心に編纂が進められたといいます。
17世紀かそれ以前からある歌に加えて、18世紀から19世紀を生きた作曲家・詩人ウー・サによる作品が全体の3~4割を占めています。4500首以上ある万葉集において大伴家持が480首近くを書いて1割以上を占めているのを思い出しますね。



ミャンマーといえばビルマ、ビルマといえば『ビルマの竪琴』の「竪琴」です。ミャンマーの伝統音楽においても、「竪琴(サウン saung, saung-guak)」は「楽器の王様」と呼ばれ重要視されているそうです。ミャンマーにはこの他にも、竹琴(パッタラー pattala)や、多数の太鼓からなる楽団(サインワイン hsaing waing)など様々なものがあります。本書では、歌謡のメロディーが中心にあり、器楽は歌謡がなければあり得ないと書かれています。この器楽と歌謡の関係もたいへんに興味深いのですが、本書が面白いのは、歌集であり楽譜でもある「書かれたもの」にも重要な位置付けを与えているところ。

「大歌謡」は、歌詞と節回しが記された「書かれたもの」で構成されているわけですが、小さなシンバル(スィー si )とカスタネット(ワー wa)で「チーン カツッ」という2拍子を打つ「節」が単位になっています。上掲の竪琴と歌の楽曲も(これが大歌謡であるという保証は見つけられませんでしたが)、よく聴くと小さく「チーン」と「カツッ」という音が繰り返されているのがわかるでしょう。「大歌謡」は複雑なメロディの組み合わせに加えて、演奏するたびに奏者が即興をするという特徴があるのですが、厳格に定められた節という単位と、その単位ごとに記憶されている歌詞と旋律(メロディ)がその土台になっているのです。
なお、日本の「演歌」を振り返ったときにも発見された、複数の楽曲で旋律が共有発展させられるという伝統音楽近代以前の民衆音楽の構造は、ミャンマーの伝統音楽にも同様に見いだせるようです。節という単位が確定しており、複数の楽曲で旋律が共有されることによって、楽曲を習得すればするほど、より多くの楽曲を習得しやすくなり、またより複雑な節回しが可能になり、また即興もしやすくなる、という仕組みです。



本書ではまったく触れられていないのですが、ミャンマー音楽を調べていたら見つかった情報として、ミャンマーには独自の蹴鞠の文化「チンロン chinlone」がある、というものも重要だと思います。上掲の動画をご覧頂きたいのですが、日本の蹴鞠が公家の衣装を着てやるのとは異なり、ミャンマーではまるでサッカー選手のようなユニフォームを着て、相撲のような土俵、あるいはテニスのようなコートで、ゲームが行われています。なんでこのスポーツあるいは遊戯が音楽に重要な関係があるのでしょうか。一説には、このチンロンの伴奏音楽としてミャンマーの即興音楽が発展してきたという経緯があるというのです。なんの裏付けもとれていませんが、ボールを蹴るタイミング、ボールが宙にあるタイミングなどが、音楽のリズムとして独特のスピード感やタメの感覚を作り出していると考えるのは面白い発想だと思います。



最後に、詳細がよくわからないのですがネットで見つけたミャンマー伝統音楽のかっこいい音源を貼っておきます。ビルマ語が読めないため、情報がはなはだ少なく、概要を紹介するしかできませんでしたが、冗談抜きで今後はビルマ語を勉強してこのあたりをもっと詳しくなっていきたいなと思っています。




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【ナガタのプロフィール】

「Book news」を運営している'79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は関東某県在住。
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