イノベーションにどう「制約と自由」を
設けるべきか

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イノベーションは場当たり的・総花的な実験ではなく「規律ある取り組み」にせよ、と再三強調するアンソニー。その方法の1つとして、新規事業にどんな制約を設け、どんな自由を与えればイノベーションの実現に近づくかを説く。


 大企業で成長戦略を担当する幹部たちが直面している最も重大な課題の1つは、イノベーションの取り組みに対して、どのような制約を課すべきかを決めることだ。総花的で制約を設けない取り組みは気分がいいかもしれないが、往々にして進むの方向がばらばらになってしまう。他方、不適切な縛りを設けることのリスクも研究で実証されている。誤った制限を課している企業は、競争の仕組みを変えようとする破壊的な新興企業に対して脆弱なままだ。では、イノベーションを促進する、または台無しにする制約とはどのようなものだろうか。

 我々イノサイトは通常、2つの主要な制約を設けることを企業に提言している。第一に、自社にとって有望な市場を片手で足りる数(つまり5つ以下)に絞って特定すること。「有望」というのは、テクノロジーまたは消費者行動の変化によって、これまで放置されていたニーズに自社独自のケイパビリティで対処できるようになった市場だ。その特定は難しいように思われるし、実際に容易ではない。成長の可能性を秘めた市場は一見しただけではわかりにくく、過去の市場データに頼っても、うまく発見できないだろう。あくまで過去の情報であり、未来を示したものではないからだ。

 したがって、絞り込んだターゲット市場のリストを作成するには、綿密なエスノグラフィー調査への投資、そしてアーリーステージにある新興企業や新興国市場への現地訪問が求められるかもしれない。そして調査結果から得られる示唆を小規模のチームで何度も検討し、今後の取り組みについて前提を打ち出す必要がある。

 第二の制約は、アイデアの実現を目指すうえで順守すべき財務指標を定義することだ。たいていの企業は多くの時間をかけて、イノベーション案件の財務予測を立て、その分析結果が何を示すかを討議する。それは時間の無駄になりかねない。予測はあくまで、仮の数字が示す関係にすぎない。それよりも、イノベーションのチームにはもっと基本的な財務目標を与えるべきだ。アイデアが実行されたら、どの程度の収益を生み出す必要があるか。イノベーションが実現するまでの間、会社はどのくらいの損失を、どのくらいの期間にわたって出すことを覚悟しているか。その新たな製品・サービスはどの程度のマージンを稼がなければならないか。これらのガイドラインを入念に設定しよう。

 新規成長事業が軌道に乗るまでには、当初の予想より長い時間がかかる場合が多い。粗利益率ばかりを追求すれば、その新規事業が主力事業とは異なる方法で将来的に儲けを出す可能性を見過ごす恐れがある。したがって、粗利益ではなく純利益率に焦点を当て、既存事業と異なるビジネスモデルを導入する自由を与える必要がある。あるいは、破壊的イノベーションを目的とする計画的な取り組みについては、既存事業よりも低い粗利益率を容認すべきだ。

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