ITを駆使し1千分の1秒単位で株などの自動売買を繰り返す「超高速取引(HFT)」が米国など各国で過熱している。荒稼ぎする業者が続出する一方で、HFTが引き金のシステム障害が世界規模で拡大。当局が規制に乗り出したが、業者は反発している。人知を超えたミクロの攻防は、究極の「錬金術」か、それとも市場崩壊への呼び水なのか。
投資の世界では成功もあれば失敗もある。トレーダーやヘッジファンドなど金融のプロでもインサイダー情報に手を染めるなどしない限り、何年も勝ち続けることなど不可能だ−。そんな世の“常識”が崩れ落ちつつあるとしたら、だれでも驚くだろう。
今年3月。生き馬の目を抜く米ウォール街に、どよめきが広がった。
HFTを手がける米投資企業のバーチュ・ファイナンシャルが新規株式公開(IPO)に向けて開示した資料には、にわかに信じがたい営業成績が記されていた。
「2009年から13年までに当社が損失を出したのは、1238日中わずか1日だった−」
たまに株を売買する個人投資家ではない。市場で日々絶え間ない売買を繰り返している金融業者が、5年間で事実上不敗だったというのだ。自らも海千山千の投資の世界で身を立ててきた米投資銀行のある関係者は「もはや『投機』とも『投資』と呼べるしろものではない。バーチュは打ち出の小づちを手にした錬金術師だ」と嘆息をもらす。
HFTとは英語の「high frequency trade」の略で、文字通り頻繁に取引を繰り返すこと。そしてHFT業者の打ち出の小づちとは、高性能コンピューターによる高度な売買システムだ。経済統計の結果など市場の値動きを左右する情報を一般投資家に先駆けて瞬時に収集し、分析させて取引を成立させる。この手法を駆使して短期取引を繰り返し、利ざやを積み上げることで荒稼ぎをしていた。
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