脱法ドラッグの被害が止まらない。東京・池袋で先月、8人が死傷する交通事故があった。政府が関係閣僚を集めて摘発強化を話し合った今月8日には1日で3件も起きている。

 使った本人だけでなく、無関係な人まで巻き込んでいる。業者らは興奮や幻覚をもたらすと知りながら売っている。極めて悪質であり、一掃すべきだ。

 若い世代を中心とする脱法ドラッグの乱用は数年前から社会問題になっている。

 禁止されている薬物の化学構造を少しだけ変えて法の網をかいくぐる。お香、アロマなどと称し、体に使う目的でないふりをして売る。そこに取り締まりの難しさがある。

 政府も手をこまぬいていたわけではない。

 構造の似た物質をまとめて規制する制度を採り入れた。指定薬物の販売だけでなく、所持や使用も規制する法改正もした。

 それでも追いつかない。薬物の鑑定に1カ月以上もかかり、現行犯逮捕が難しいことなどが壁になっているという。

 そこで政府は、指定薬物かどうかにかかわらず、「無承認医薬品」として取り締まることを検討している。

 飲酒運転の事故は、知っていて酒を出した店を共犯に問えるようになって、抑止が働いた。脱法ドラッグも、売った業者の結果責任を問えれば抑止の効果を期待できる。刑事政策の専門家はそう指摘する。

 街から店を閉め出すこんな知恵もある。店を貸すとき、「脱法ドラッグを売っているとわかったら大家は契約解除できる」との条項を、賃貸契約書に盛り込む。静岡県は県内の不動産業界とそんな協議を進める。

 法規制には「脱法ドラッグ」をどう定義するかといった難しさが伴う。が、危ない薬を売らせないことには社会の合意がある。知恵を絞りたい。

 売る側を取り締まる一方で、使わせないための啓発も要る。

 「ハーブ」の語感や価格の安さから、脱法ドラッグには軽い薬物というイメージがあるが、実は麻薬や覚醒剤より怖い面もある。複数の薬物がまざっているなど成分が不明で、どんな症状を起こすかわからない。

 夏休みは若者が薬物に手を出すリスクが高い。症状や事件・事故の例を挙げ、危険情報の周知を急ぐべきだ。

 厚生労働省の研究班の調査では、脱法ドラッグ乱用者の大半は大麻などの乱用経験もある。薬物汚染の根絶には、処罰だけでなく、薬物依存を治療させる仕組みの強化も必要になる。