ひさしぶりに欧州市場が荒れ模様になっています。

原因はポルトガルの大手銀行、バンコ・エスピリト・サントの経営危機です。

同行の株価は木曜日に-17%暴落した後、取引停止となっています。

今回の事件は、もともと去年の12月にウォールストリート・ジャーナルの記者、パトリシア・カウスマンがスッパ抜きの記事を書いたのが発端です。

バンコ・エスピリト・サントは、ポルトガルの財閥グループ、ESIの中核銀行です。ESIは建設業をはじめ色んな商売をやっているコングロマリットです。

バンコ・エスピリト・サントの頭取は、ESIの重役でもあり、これらの企業グループはポルトガルの財閥、エスピリト・サント家によって牛耳られています。

ギリシャ危機に端を発する欧州財政危機が襲った際、南欧各国の企業は軒並み資本へのアクセスが閉ざされました。ESIはグループ銀行であるバンコ・エスピリト・サントが所有する投信、ESリクイデスに手形を買い取らせるという方法でこれをしのぎました。

この投信の純資産のうち80%がESI関連の手形になっていたというから、信用力の低下した借用書の実質的な「ゴミ箱」として使われたわけです。

財閥グループ会社同士の株式の持ち合いや引き受け合いは、別にポルトガルに限らず、日本でも見られることですし、バンコ・エスピリト・サントは「法律をやぶることは、何もしていない」と主張しています。

ただ、グループ内への寄り掛かりが度を越すと、今回のようなことが起こるのです。

ESリクイデスに投資した一般の投資家は、まさかこんなリスクの集中がおきているとは夢にも思っていなかったし、親会社の苦しい台所事情は、このような抜け道の存在で綺麗に隠し通されてきました。

しかしWSJの指摘を受けてポルトガル中銀が5月にバンコ・エスピリト・サントを監査したところ「不備が見つかった」というわけです。具体的には評価が毀損しているはずの保有証券をちゃんと「値洗い」せず、純資産を過大に報告していたのです。

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以上がバンコ・エスピリト・サントの事件のあらましですが、比較上、不適切であることを知りながら、敢えて指摘すれば、この事件は昭和二年の金融恐慌の引き金となった、鈴木商店台湾銀行の癒着関係を連想せずにはおれません。

鈴木商店は砂糖の取引からはじまって後の神戸製鋼、帝人、大日本セルロイドなどのグループ会社を擁する有力財閥でした。

その中核銀行は台湾銀行でした。

台湾銀行は当時の日本の植民地政策を担う、重要な銀行であり、実質的な台湾の中央銀行でもありました。喩えて言えば、スタンダード・チャータード銀行みたいなノリです。

もともと鈴木商店のルーツはサトウキビであり、台湾銀行とは深い付き合いです。

第一次大戦後の世界不況で、日本経済も低迷するわけですが、そこへ関東大震災が起こります。

日本政府はクレジット・クランチを回避するため「震災手形」というカタチで手形を日銀に持ち込めば、どんどん割り引いてやるという方針を打ち出しました。

これは現在の欧州中央銀行がやっているLTRO(長期資金供給オペ)に酷似しています。

鈴木商店は引き受け手の無い不良手形を、「震災手形」というカタチでどんどん台湾銀行に持ち込みます。台湾銀行は既に多額の融資を鈴木商店にしている関係上、融資先が倒産しては困ります。そこで台湾銀行はコール市場で資金を調達し、無理しながらこれに応じます。

その後、「震災手形」の処理が議会審議にかけられると、世間の目がこの問題に集まりました。

結局、他の銀行が台湾銀行へのコールを一斉に引き上げたので、台湾銀行は破たんしました。

いま、個別のケースから離れ、巨視的に欧州市場で起こっていることを観察すれば、ギリシャ危機の際の緊急措置であるLTROは、収束される段階にあります。

LTROでスペインやイタリアの借り手が欧州中央銀行に駆け込んだ、短期の借り入れが返済されているので、下のグラフに見るようにECBのバランスシート(橙色)は縮小しています。

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もちろん、まだ欧州の景気回復は本調子には程遠いので、TLTROというカタチで、ピンポイントの継続支援というのは先日発表されています。でも趨勢としては「ギリシャ危機の後処理」という、整理の段階に来ているわけです。

金融市場は、(もう危機は去った)ということを過剰に織り込みすぎ、枕を高くしてグーグー安眠している状態です。しかし楽観的シナリオを過度に織り込みすぎていたと言わざるを得ません。

ポルトガル経済は小さいし、今回、問題になっている金額は、欧州全体から見れば取るに足らないスケールです。だから今回の問題が新しい危機を誘発する可能性は低いです。

ただこのところ慢心しきっていた投資家には、良い薬になったと思います。