女子ボクシングの池山直(フュチュール)が5月17日、WBO世界アトム級王座決定戦でフィリピン選手を破り王者になった。44歳7カ月と29日。男女を通じ、日本人最年長世界王座獲得記録だ。それまではWBAスーパーフライ級の藤岡奈穂子(竹原&畑山)の38歳2カ月26日だった。
だが、私は素直に喜べない。日本のボクシング界は安全のため、現役に年齢規制を設けてきた(原則として36歳以下)。その規制をないがしろにした世界戦に、疑問を感じずにはいられない。
今年1月、デビュー戦でTKO負けした選手が急性硬膜下血腫で死亡した。日本ボクシングコミッション(JBC)発足62年で38件目のリング禍だ。WBCは2007年、35歳制限を検討。当時46歳で世界スーパーフライ級王座挑戦を決めていた猪崎かずみ(花形)に試合を中止させた。猪崎はJBCの勧告に従い引退した。
池山の世界戦承認をJBCは「負けたら引退の条件付きだったから」と言う。何か変だ。「事故は自己責任」では、ボクシング界がこれまで築いてきた努力はなんだったのか。健康管理に厳しいWBCなら、今回の挑戦はあり得なかった。最年長奪取更新も素直に喜べない。 (格闘技評論家)
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