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ヘイトスピーチ  差別許さぬ態度貫こう

 京都市内の朝鮮学校前で「在日特権を許さない市民の会」(在特会)が行った街頭宣伝「ヘイトスピーチ」の違法性が問われた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は在特会の控訴を棄却した。授業を妨害し、子どもたちに差別的な言葉を浴びせる行為が許されるはずはない。極めて妥当な判決だ。
 在特会は、学校周辺で「朝鮮人を処分しろ」「スパイの子ども」などと拡声器で連呼した。昨秋京都地裁判決は「著しく侮辱的、差別的」で国連の人種差別撤廃条約に抵触するとし、学校周辺での街宣活動を禁じ、約1200万円の賠償金を支払うよう命じた。
 高裁判決は一審を支持するとともに、インターネットで映像が公開されて拡散、児童への被害が継続することの悪質性を指弾した。ネット時代への警鐘といえよう。
 在特会側は一貫して「表現の自由」を主張した。憲法は表現の自由を保障するが、個人の尊厳など侵してはならない領域があるのは当然だ。子どもを威嚇して自尊心を傷つけ、民族を理由に汚い言葉で攻撃することに保護すべき公益性があろうはずはない。
 在特会は控訴審で、日本が条約を批准しながらもヘイトスピーチ処罰条項を留保している点を挙げ「司法の先取り」と批判した。
 権力の恣意(しい)的な運用を防ぐため、表現の自由の侵害につながる法整備に慎重であるべきなのは言うまでもない。一方で、政府が言う「国内に法規制するほどの民族・人種差別はない」との説明も現実を直視しているとはいえない。
 外国人への嫌悪をあらわにする街宣は今も散発する。野放しにすれば日本の人権意識が問われる。現行法の枠内での対処を徹底するとともに、ヘイトスピーチの定義を明確にした上で、諸外国も参考に法制化の在り方を議論したい。
 同時に自らの差別意識と向き合い、憂さ晴らしに誰かを標的にする行為が身近にないかを点検したい。サッカーJリーグでの差別的な横断幕や四国遍路の休憩所での張り紙問題も記憶に新しい。憎悪や罵声の応酬でなく異文化を認める対話型の活動を広げ、卑劣な差別を容認しない社会を目指したい。
 安倍晋三首相は言葉の暴力や差別を許さぬ姿勢を一貫して示さねばならない。ネット上では歴史認識や領土問題で強硬姿勢をみせる政権を賛美する声もある。中韓との関係に修復の糸口が見えないことも偏狭な排外主義を増幅させている面があることを、政権は真剣に受け止めるべきだろう。

[京都新聞 2014年07月09日掲載]

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