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社会・意見

脳内の「未定」フォルダを鍛えましょう

坂本龍一が咽頭がんであることが判明した。
スポニチが、彼は反原発ポリシーゆえに放射線治療を拒否したと報道した。

それに対して本人およびマネージャーが否定的なツイートをした。
公式サイトからも彼ががんであることの発表があったが、治療方法については特に触れられていない。

これに対して以下のようなネットニュースの記事が出た。

坂本龍一の咽頭がん報道「反原発だから放射線治療拒否」はスポニチの飛ばし記事でした | BUZZAP!(バザップ!)

記事に引用されているように、坂本龍一の公式コメントでは、治療方法の選択には一切触れられていない。本人とマネージャーのツイートで報道に否定的なコメントがあるが、明白に否定しているわけではない(たとえば本当に反原発ゆえに放射線治療を拒否しているのだが、それを公開したくないのかもしれない)。

だからこの公式コメントとマネージャーのツイートだけで

公式発表の文書の中でも治療方針や反原発運動との関連については一切触れられておらず、スポニチの記事は本人の意図や方針を反映したものではないことが明らかになりました。

と書いてしまうのは、この記事もまた飛ばしなわけで、他メディアの記事を飛ばしと批判する記事自体が飛ばしとかもう勘弁してください。

このBUZZAP!という媒体が独自に取材した訳でもなさそうだし、スポニチは少なくとも医療関係者かなにかからタレコミは得ているはずで、スポニチの方がまだしも取材コストをかけているといえそう。その記事が出たのは坂本からの公式発表以前で、治療方針はともかく、坂本龍一ががんであることは誰も知らなかったので、それを報じたこと自体はニュース価値があったといえる。

かといってスポニチが良いというわけでもないんだけど、BUZZAP!は、ネットで「スポニチひどいなあ」という声が巻き起こるのに乗っかるのを意図した、ネットで拾える情報だけで書いた記事であって、どっちもどっちな低レベルな争いだ。

こういう、ある適当な記事がSNSとかに流れてきて、それを読んで「へぇ〜」と思う、あるいは思ったことをtweetしたりする。でもそれはデマですよと後から流れてきて「デマだったのか」と思う。これって本当に時間とエネルギーの無駄だし、なんとかならないのだろうか。

スポニチもBUZZAP!も、いやおよそネットで無料でニュースを読ませる媒体はすべてPVを稼いで広告を売りたいと思っている。そのため目を惹いて「マジで?」とクリックしたくなる見出しや、安直に結論を導いて言い切り、読者が「○○なんだってさー」とSNSに貼りつけてもらうのに最適化した記事が大増殖している。

ネットで見ることができる公式発表と坂本側のtwitterだけをソースとして飛ばしでない記事を書くと、以下のように、「疑問を呈している」「治療の詳細には触れられていない」というモヤっとした内容になる。

坂本龍一、一部メディアによる報道に呆れ 「ああいう芸能記事を真に受ける人いるの?」 – ライブドアニュース

スポニチの記事を信じて、「放射線治療の拒否なんて!」と騒ぎ、スポニチが飛ばしでしたという記事を読んで、「飛ばしだったのか、スポニチひどい!」とまた騒ぐのは方向が逆なだけでやっていることは同じだ。公式情報からは治療方針については何も分からないのだし、このことをニュースで知るような、彼の家族でも知人でもない人は、他人の病気の治療方針なんて自分の人生と関係ないし、そういうことは脳内の「未定」フォルダに入れておいたらどうか。

でもニュースを見る側だけを責めてもしょうがないよなあ、メディア環境の問題だし、という気持ちもある。特にここ5年くらいのネットを含むメディア全体の環境って、特に専門家でもないひとが普通に生活して、間違いのない必要な情報を、お金や時間などのコストをかけすぎずに得たいと考えた場合、悪化していると思う。

個人で防衛できることとしては、釣りっぽい見出しや信頼度の低いニュースサイトの記事は見ないのが一番だが、見てしまった場合は一日ほど脳内の「未定」フォルダに入れておき、それ以上SNSなどで拡散しないのがいいと思う。一日もたてば、デマや飛ばしだったらそのことが明らかになっている可能性が高いし、そうでなくても言及する気がうせているだろう。