(2014年7月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
2012年6月、米中両国の政府高官がバージニア州南部で会談し、南シナ海で2カ月間続いている危険なにらみ合いについて議論した。
中国、フィリピン双方の数十隻の政府船舶と漁船が、フィリピン沿岸から120海里離れたところにあり、両国が領有権を主張するスカボロー礁の周辺海域に集結していた。海軍同士が衝突する現実的な可能性があるように見えた。
台風の季節が急速に迫り来る中、米国は事態の打開を仲介しようとした。米国のアジア外交の責任者であるカート・キャンベル氏と中国外交部の傅瑩外務次官の会談の終わりには、米国は、双方が撤収するとの合意が得られたと考えていた。翌週、フィリピン側の船舶はスカボロー礁を離れ、自国へ戻った。
中国勢はその場にとどまった。それから2年経った今も、その残響が感じられる。
北京の一部関係者は、「スカボロー・モデル」について語る。1度に1つずつ岩礁などを奪取することで、中国が徐々に西太平洋の支配権を確立するためのテンプレートである。つまり、対立の理由を決して与えることなく、米国をゆっくり締め出す漸進的な修正主義の一種だ。
米国のエアシーバトル構想と中国のサラミ・スライス作戦
ワシントンでは、米政府高官が中国側の不誠実な行為と見なすものに対する恨みが、しばしば中国の「サラミ・スライス」作戦と表現されるものへの対応に関するオバマ政権内の激しい議論を形成している。
米国はここ数カ月で、南シナ海に対するアプローチについて2つの大きな結論に達した。1つ目は、米国の抑止の努力が限定的な影響しかもたらしていないことだ。2010年以降の米国の関心とレトリックにもかかわらず、中国は近隣諸国と米国を苛立たせるような形で現状をゆっくりと変え続けてきた。
2つ目は、アジア地域における米国の軍事戦略が、ある程度、間違った質問をしてきたということだ。
米国防総省の一流の人材は数年前から、米国はどうすれば中国との長い戦いに勝てるかという問題に重点的に取り組み、紛争時に米国の航空機と船舶が係争地域に継続的にアクセスできるようにするための「エアシーバトル」構想に行き着いた。