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Kindleで読み、Evernoteで書くことで、「空間」という制約要素から自由になる(Kindleで『知的生活の方法』を読んで考えたこと)

公開日: : 勉強

1.『知的生活の方法』(渡部昇一)とKindleで再会

(1) 『知的生活の方法』

『知的生活の方法』という本があります。英語学者の渡部昇一氏による講談社現代新書の一冊です。

知的生活とは、頭の回転を活発にし、オリジナルな発想を楽しむ生活である。日常生活のさわがしさのなかで、自分の時間をつくり、データを整理し、それをオリジナルな発想に結びつけてゆくには、どんな方法が可能か?読書の技術、カードの使い方、書斎の整え方、散歩の効用、通勤時間の利用法、ワインの飲み方、そして結婚生活……。本書には、平均的日本人に実現可能な、さまざまなヒントとアイデアが、著書自身の体験を通して、ふんだんに示されている。知的生活とは、なによりも内面の充実を求める生活なのである。

知的生活の方法 渡部昇一 講談社より)

『知的生活の方法』を初めて読んだのは、大学生のときでした。大学近くの古本屋さんで、100円か50円かの古本を購入し、一生懸命読んだ記憶です。

それから10数年の時が流れ、私の頭から『知的生活の方法』の内容がおおかた消え去ったころ、私は、Kindleストアで『知的生活の方法』と再会し、再読しました。

(2) 空間

a.『知的生活の方法』の面白いところ

『知的生活の方法』には、もちろん、研究者としての渡部昇一氏の知的生産の技法がふんだんに盛り込まれています。たとえば、倉下忠憲氏の『Evernote「超」知的生活術』にも紹介されていた「タスクフォース」という情報カードとカードボックスの使い方は、この一例です。

でも、私が『知的生活の方法』を読んで興味深く感じるテーマは、「空間」です。大学生のときに初めて読んだときにも、今Kindleで読み返したときも、「空間」という、知的生活とは距離がありそうなテーマが大きく取り上げられていることに、面白さを感じました。

b.空間

『知的生活の方法』が空間を重視するのは、知的生活のためにはたくさんの本を手元に置いておく必要があるから、という理由からです。

にもかかわらず、知的生活とは絶えず本を買いつづける生活である。したがって知的生活の重要な部分は、本の置き場の確保ということに向かざるをえないのである。つまり空間との格闘になるのだ。location 1087

現代における知的生活にとっては空間への配慮が決定的な役割を持つ。location 1731

知的生活に最適な住居の設計図を敷地面積ごとにいくつも検討しているのは、やりすぎじゃないかなあ、という気もするのですが、知的生活にとって空間が重要だという指摘は、一理あります。

また、空間と密接に絡むのが、お金です。

知的生活にとって、本は必須です。本を買い、手元に置いておけば、本を調べるために図書館などに出かける時間を節約することができます。

でも、本を買うことはもちろん、特に本を保管するための空間を確保するためには、お金がかかります。たくさんのお金です。

知的生活を送るための時間を得るためには、手元に本を保管するための空間を確保する必要があり、そのためにはお金がかかります。知的生活の時間は、お金で買わなければ手に入りません。

この私の考え方は、「時は金なり」の裏返しで、金を使って本を手許に置けば、莫大な時間の節約になるということだから、結局は「金は時なり」ということになる。location 1296

知的生活にとって、時間は空間によってその実質をなん倍にも引き延しうる。そしてその空間が金によって獲得できるとすれば、知的生活の時間は明らかに金で買いうると言ってよい。location 1331

c.知的空間獲得への情熱

大学生のころ、『知的生活の方法』を読んだ私は、「知的生活を送るためには空間を確保しなければならず、空間を確保するためにはお金が必要であり、つまり、知的生活を送るためにはお金がいるんだな。」と理解しました。

社会人になり、結婚し、子どもが生まれ、今後の住居をどうしようかなあと考え始めた現時点、『知的生活の方法』を読み返した私は、今の我が家における私個人に残された120cm×120cmの空間を思い、「限られた知的空間では、限られた知的生活しかできないのだろうか。でも、広々書斎はあんまり現実的じゃないよなあ。。。」と感じています(参考:120cm×120cmの書斎:本棚つきデスクで部屋を整理した)。

『知的生活の方法』には、こんなくだりがあります。

まだ学生や大学院生で、空間に手が出ない人はどうするか。その場合は空間への関心を一日たりとも忘れずに、理想的な知的空間を所有している自分を夢として描き続けること location 1751

しかしその夢を持ちつづけた人は、結局それを獲得する公算がすこぶる高いのである。location 1754

知的空間の獲得を熱烈に、しかも長期間にわたって生き生きと願い続けるべきなのだ。location 1759

渡部氏の厳しいお言葉からすれば、現段階で私が獲得できた知的空間が120cm×120cmにとどまっているのは、大学生のころから今に至るまでの、知的空間獲得に対する情熱が不十分だったのでしょう。ただただ反省するのみです。

(3) 2014年の知的空間は、1972年から見れば、無限の広さを持つのかもしれない

が、しかし、『知的生活の方法』が刊行された1976年から、世界は変わりました。

私にとって大きいのは、2014年の世界に、KindleとEvernoteがあることです。

今の私に与えられた知的空間は、現実世界の我が家における面積だけを見れば、120cm×120cmです。でも、KindleとEvernoteのおかげで、私が感じる主観的な知的空間は、広々としています。

この知的空間は、1976年の世界から見れば、ひょっとすると、無限と言えるほどの広い空間なのかもしれません。

そこで、2014年の私の知的空間を支える、KindleとEvernoteのことを、『知的生活の方法』と絡めて、考えてみます。

2.私の知的空間を拡張するKindleとEvernote

知的生活とは、ある意味、「読んで書く生活」です。本などを読み、考えたことを書く。これが、私にとっての知的生活です。

このうち、「読む」に関する知的空間は、Kindleによって拡張されました。また、「書く」に関する知的空間は、Evernoteによって拡張されました。

(1) 本に関する空間の自由を実現したKindle

a.Kindleという総合的な電子書籍サービス

Kindleは、Amazonの電子書籍サービスです。Kindleという電子書籍関連の総合的なサービスを構成するのは、

  • Amazonが用意するたくさんのKindle本
  • Kindle本を読むための端末やアプリ
  • 自分が購入したKindle本を管理できるAmazonによるクラウドサービス

の3つです。

Kindleの強みは、この3つすべてを高レベルで兼ね備えていることにあります。

まず、Kindle本のラインナップは、2014年現在、豊富です。読みたい本のすべてがKindle本で提供されているわけではありません。でも、Kindle本の中に読みたい本を見つけるのは簡単です。

次に、Kindle本を読むための端末とアプリが優れてします。とくに、Kindle PaperwhiteというAmazonによる専用端末は、Kindleのポテンシャルを存分に引き出す、すばらしい道具です。

最後に、Kindleには、クラウドサービスとしての個人ページが用意されています(Amazon Kindle)。このページを利用すれば、自分がハイライトした箇所をテキストデータで取り出すことができます。

Kindleの個人ページをウェブクリップして、Evernoteに読書メモを残す

Kindleの個人ページ(kindle.amazon.co.jp)はおもしろい

b.空間の制約からの自由

『知的生活の方法』との関係で特筆すべきは、Kindleが、空間の制約からの自由をもたらしたことです。2つの意味があります。

ひとつめは、本を保管するために必要な空間についての自由です。Kindle本は、保管のための空間を必要としません。紙の本と違って、Kindle本を維持するために、空間を用意する必要はありません。

Kindleは、本を保管する空間という制約からの自由をもたらします。

Kindleが、本棚のスペースというボトルネックを、解消した

ふたつめは、本を読む場所に関する自由です。

図書館や書斎が読書のための優れた場所である理由のひとつは、そこにたくさんの本が存在するからです。紙の本の場合、読みたいと思った本を読むためには、そこに本が存在していなければいけません。本を保管している場所ではない場所で本を読むには、その本を持ち歩く必要があります。

何らかの本を読みたいと思ったとき、すぐにその本を取り出すことができる点で、図書館や書斎は、読書のための優れた空間です。

これに対して、Kindle本なら、Kindle Paperwhiteを1台持ち歩けば、それだけで、膨大な冊数のKindle本を持ち歩くことができます。たとえば、今、私のKindle Paperwhiteの中には、312冊のKindle本が入っていますが、当然ながら、Kindle Paperwhiteの重さは1gも変わりません。Kindle Paperwhite1台持ち歩くだけで、あたかも、世界中のすべての空間が自分の書斎になるかようなものです。

Kindleは、本を読む場所という制約からの自由をもたらします。

Kindleが、電車やスタバを、書斎にする

(2) Evernoteは、いつでもどこからでも行ける、ただひとつの、私が書く場所

a.Evernoteは、書く場所

「読んで書く生活」のうち、「書く」をカバーするのは、Evernoteです。私にとって、Evernoteは、第一に、文章を書くための場所です。

なぜEvernoteが書く場所なのか。あるいは、なぜEvernoteを書く場所として使っているのか。これについては、今までもいろいろと考えてきました。

なぜ、文章を書く道具として、Evernoteを使うのか

Evernoteを書く場所にしている理由は、いくつかあります。Evernoteのクライアントの動作が快適なこと、書いた文章のデータを整理するのがすごく楽なこと、ひとつの文章を書いているときに新しい文章を書き始めるための操作が簡単なこと、……。

でも、いちばん大きな理由は、ポケット一つ原則です。つまり、文章を書く場所をEvernoteひとつに限定することによるメリットです。

文章を書くツールとしてEvernoteを使うことのメリット テキストデータのポケットひとつ原則

自分が書く文章にポケット一つ原則を適用して、自分が書いた文章や書きかけの文章は全部Evernoteの中にある、という状態にしておけば、Evernoteを開きさえすれば、そこに書きかけの文章のすべてがある、ということになります。これはとても快適ですし、また、まとまりのある文章を書き上げるために大きな力を発揮します。

b.いつでもどこからでも行ける、ただひとつの、私が書く場所

文章にポケット一つ原則を適用することは、Evernote登場前は、面倒でむずかしいことでした。複数の端末を使うと、データの同期に気をつけなければいけませんでした。かといって、いつでもどこにいても一つの端末を使う、というのも現実的ではありませんでした。

でも、Evernoteは、この問題を軽く超えています。データを同期するために、ユーザーはたいして気を使う必要がありません。また、iPhoneからでもWindowsパソコンからでもMacからでもウェブからでも、いろんな場所からアクセスできます。

メタファーで言えば、Evernoteは、いつでもどこからでも行ける、自分専用の文章を書く場所です。その場所は、ただひとつの場所なので、その場所にさえ行けば、いつもと同じデータといつもと同じ環境が、そこにあります。

Evernoteという、いつでもどこからでもいける、ただひとつの、私専用の文章を書く場所のおかげで、私は、空間の制約を受けることなく、どこからでも(スターバックスでも通勤電車でもリビングでも)、Evernoteという文章を書く場所に行くことができます。

3.おわりに

『知的生活の方法』が刊行された1976年から考えると、Kindleが「読む」に、Evernoteが「書く」にもたらした変化は、革命的です。今や、KindleとEvernoteを使えば、ごくわずかな空間のみで、かなり高度な知的生活を送ることだって可能です。

もちろん、紙の本にはKindle本にはないよさがあり、紙の情報カードやキャンパスノートにはEvernoteにはない特徴があります。そのため、紙の本や情報カードを排除する必要はありません。

でも、大切なのは、紙の本を保管するための本棚や、落ち着いて文章を書くデスクを確保できなくても、KindleとEvernoteを使えば、知的生活に支障はない、ということです。

2014年の世界においては、『知的生活の方法』が強調した「空間」は、必ずしも知的生活の制約要素ではなくなりました。これは、日本の地方都市で暮らす、妻子持ちのサラリーマンにとっては、かなり大きな福音です。

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