中国の大富豪たちが国内のサッカーに何億ドルもの投資をしている。それは見せびらかすためだけではない。

 中国のサッカークラブの過半数は資金的に苦労しているものの、それでも不動産や電子取引さえもしのぐリターン(利益率)を稼ぐことは可能だ。実際、創業者で現会長のジャック・マー(馬雲)氏率いる電子商取引最大手の阿里巴巴(アリババ)は、中国のサッカークラブ「広州恒大」の株式50%を12億人民元(約197億円)で取得した。不動産開発大手の恒大地産集団有限公司は2010年に、当時資金難にあえいでいた広州恒大を1億人民元で買収した。同集団を率いる不動産富豪の許家印氏にとって、これは4年間で23倍のリターンを意味する。年率のリターンは120%になる。

 他の恩恵もある。サッカーチームは強力なマーケティングツールになり得る。世界の大半の国・地域でそうであるように、中国のサッカーはその他のどのスポーツよりも大きなマーケティング収入があり、TV視聴者数も最も多い。サッカーの試合は、中国中央テレビ(CCTV)が2013年に放映したすべてのスポーツゲームの半分を占めた。またクラブへの投資によって政府関係者とのコネも築ける。政府がスポーツ推進に熱心だからだ。

 中国の大富豪ランキング「胡潤百富榜」の発行人Rupert Hoogewerf氏は「中国の富豪トップ10のうちの3人がいずれもサッカーに投資しているのは偶然ではない」と述べ、「エゴの要素があるし、ビジネス的な意味という要素がある」と語った。

 中国の最高指導者がファンであればなおさら役に立つ。Hoogewerf氏は「習近平国家主席はサッカー好きだ」と述べ、「(サッカー投資は)地元の政府との関係を構築するのに非常にいいし、通常はアクセス出来ないようなネットワークに接近できる」と語った。

 国営メディアによると、習氏(当時副主席)が2012年にダブリンのクローク・パーク・スタジアムを訪問してサッカーボールを蹴った写真は現在、中国国家主席室に置かれているという。習氏は、中国チームがワールドカップ(W杯)予選を通過し、W杯の開催国となり、いつかW杯を手にするのを見たい、と述べている。中国がW杯大会に出場したのは2002年の一度だけだ。

6月5日時点のサッカー世界ランキング(ポイントは207のナショナルチームの実績に基づく)

 中国一の大富豪、王健林氏をはじめ、財界人がこれに追随した。王氏が設立した不動産開発大手・大連万達集団は2011年、中国のサッカー協会への5億元の寄付に同意し、欧州で中国の若いサッカー選手を訓練させる活動などを進めた。万達はこのプログラムをさらに3年間延長する方針で、中国国内で若いサッカー選手を育成するため向こう10年間にわたって年間2億元を投じる新たな計画を打ち出した。

 それでも国際舞台では、中国は依然として卓球、バドミントン、ダイビング(飛び込み競技)といったスポーツのほうがはるかに強い。国家はオリンピックのメダルを多数獲得できる可能性のあるスポーツに重点的に投資してきた。2012年の夏季五輪では中国はメダル獲得総数で米国に次いで世界2位だった。

 中国人はサッカーの試合をテレビ観戦するのが大好きだが、中国サッカー協会(CFA)の登録選手はわずか8000人で、人口17万3000人に1人の割合にとどまっている。

 中国の大富豪たちが強いナショナルチームを育成できるかどうかは未知数だ。国際サッカー連盟(FIFA)の世界ランキングによれば、中国は2008年以降、世界207チーム中でおおむね70位から100位の間に位置してきた。ただ、現在は103位に下げている。

 しかし状況は上向きつつある。新たな投資家たちが資本に加え、管理ノウハウ、マーケティングの専門知識を国内クラブチームに持ち込んでいる。昨年11月には、広州恒大がアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)のタイトルを勝ち取った。中国チームがACLで優勝したのは20年間超ぶりだった。広州恒大はイタリアのサッカーチーム、ユベントスなどの監督を歴任したマルチェロ・リッピ氏を迎え入れたほか、アルゼンチンのストライカー、ルーカス・バリオス選手と契約を結ぶことで攻勢に転じた。

 恒大地産の許氏や万達の王氏とは違って、阿里巴巴の馬氏は熱狂的なサッカーファンではない。馬氏は、広州恒大に投資する理由について、割安だからだと言う以外は何も語っていない。

 馬氏が支払った投資額に基づくと、広州恒大は世界で16番目に高価なサッカーチームになる。これはスペインの名門クラブ、アトレティコ・デ・マドリード(米フォーブス誌によると資産価値3億2800万ドル)をもしのぐ。

 サッカー・ゲーミング会社KTフットボールの最高経営責任者(CEO)で中国女子ナショナルチームの元メンバー、Leo Liu氏は「中国のサッカーはまだ非常に未開発、多くの機会がある」と述べ、「実業家がもっと積極的に関与すれば、この成長産業の隠れた価値が引き出されるだろう」と語った。

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