ルビコン河で溺れる韓国

中韓首脳会談を木村幹教授と読む(1)

鈴置 高史

外交で「不渡り」出す朴槿恵

鈴置:一方、韓国は中国にも「NO」と安易に言えない状況です。今回、習近平は主席として北朝鮮よりも先に韓国を訪問しました。

 でも、もし何かで中国の不興を買って「やはり伝統的な同盟国である北朝鮮の方を大事にする」と言い渡されたら、韓国の政権は持ちません。韓国は北朝鮮の抑制役を、米国から中国に転換し始めたからです。

 米中間で韓国は身動きできなくなりました。ルビコン河という急流で、もう溺れている感じもあります。

朴槿恵政権は「米中双方を味方に付け、その威光で日本と北朝鮮を叩く」戦略を取ってきました。どこで計算が狂ったのでしょうか。

木村:米中関係がこんなに悪化するとは思っていなかったのでしょう。両大国の関係がまあまあなら、その間で「美味しい」思いができると韓国人は信じていたのです。

鈴置:趙甲済氏はもっと厳しい意見です。先の記事から引用します。

  • 朴大統領は今、国力以上の外交をしているようだ。預金残高以上の手形を振り出せば不渡りを出すように、国力を超えた強硬策を展開すれば、外交的な不渡りを出しかねない。

木村:確かに「残高以上の外交展開」かもしれません。韓国政府はこれまでも、すごく抽象的で大きな目標を掲げる計画を立ててきた。

 このような目標も国際社会の「風向き」が良ければ、後ろから押されてうまく実現することもありました。今回は、米中関係が円滑であることが、彼らにとって良い「風向き」のはずだったのですが……。

フィンランドになりたい

韓国はいったい、どこに向かうのでしょうか。

鈴置:韓国は朴槿恵外交により、国際関係を主体的にコントロールするつもりが、完全にコントロールされる側に回ってしまった。

 片側3車線の高速道路の真ん中の車線を走っていたら、両側の大型トラック――米中から同時に幅寄せされた感じでしょう。

 また、前後の小型車も突然に車間距離を詰めてきた。つまり日朝交渉が始まり、韓国の生存空間はここでも狭まった。

 高揚感に包まれていた韓国人は、自らの判断ミスからとはいえ、一気に四周からの圧迫を感じざるを得ない状況に陥りました。もがく韓国が、思いがけない動きに出る可能性があります。注意深い観察が必要です。

木村:鈴置さんも「『フィンランドになりたい』と言い出した韓国」で指摘しておられますが、中立化が韓国の将来の1つの逃げ道になって来るかもしれません。

では次回は、その話を。

(次回に続く)

著者プロフィール

鈴置 高史
鈴置 高史
日本経済新聞社編集委員
1977年、日本経済新聞社に入社。ソウル特派員(87〜92年)、香港特派員(99〜2003年と06〜08年)などを経て、04年から05年まで経済解説部長。02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。
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